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第一章婚約破棄事件
9.愛情の間違い
しおりを挟む状況はなんというか悲惨な物でした。
ですが、奥様は虐げられているのではなく真面な使用人が傍にいました。
ですが平民故に、あの侍女に逆らえず折檻されていたようです。
腰を痛めている乳母はわざと離れに隔離されていたではありませんか。
奥様に至っては、死に至る病気ではなかったのです。
それを医師が侯爵家の専属の医師になり、お金を巻き上げたいが故に心身ともに衰弱する薬を服薬しました。
精神を止ませ、医師の命令を聞くように仕向けたそうです。
普通は気づくのですがそのあたりを上手く利用したのでしょう。
侯爵様は第二騎士を束ねる方。
遠征にも出向く事も多く、多忙だったからこそ隙を狙ったそうです。
「本日は誠にありがとうございました」
「いいえ、当然の事をしたまでです」
軟禁状態の乳母の方を保護して、その後奥方様も救い出す事に成功しました。
少しばかり弱みを押せば簡単でしたね?
彼は宮廷に出入りする薬師だったのですが、他国で禁じられている薬を私の前で使用したのが運の尽きでした。
旦那様の絶対零度の微笑みで脅せばすぐに自白しました。
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この先何があっても帝国に身を捧げる誓いです。
その代わり、侯爵夫人以外の妻を娶らず、側妻も再婚もしない約束です。
永遠の愛を誓う儀式をしたそうです。
「伯爵夫人、感謝する。妻は私のすべてだ。私は彼女が傍にいてくれるなら貴族を辞めても良いとさえ思っている」
「随分と情熱家でございますね。その愛情をご息女にも向けてくださいませ」
「リリアンに?」
「ええ、お母様はご病気でお父様は邸におらず一人ぼっち。味覚障害の原因は寂しさ故ではございませんか?」
一概に言える事ではありませんが、前世でも似たような事があったのです。
片親でシングルマザーの母を持つ子が一人で食卓で食事を取るのが辛くて、味覚障害に陥ったパターンが。
ですが精神的病は薬では治せません。
「ご息女が一番欲しているのは、豪華な食事でも、ドレスでもございません。貴女様の愛情です」
「私は愛情を注いでいたつもりだったが…間違いだったのか」
「いいえ、誰にも正しいとか、間違いとかは解りません。ですが、ご息女が今望んでいるの一つです。手を握り、一緒に食事をする事です」
私も早くに両親を亡くし、親族に引き取られてからは寂し食卓でした。
親族の方に虐げられたわけではないのですが、遠慮もありました。
現世でもそうです。
父が亡くなってから心から甘えられる人はいなくなったのです。
「どうか、リリアン様の御心に寄り添ってくださいませ」
私ができるのはここまで。
私にはヒロインのようなチートを持ち合わせていませんし、イベントを発生させることもできません。
だけど、孤独な悪役令嬢の心の闇を少しでも減らせれば幸いと思っています。
―――だったのですが。
「改めてご挨拶申し上げます。メーイデン・シュノワールでございます」
「レティシア・アスガルトでございます」
二か月後、侯爵夫人の病は完治いたしました。
本来なら病気で若くして亡くなるはずのですが、恐ろしい程の生命力をお持ちでした。
実はかなりの体力をお持ちの方なのでは?と思ってしまいました。
これはこれで良かったと思いきや。
「大変な事になった」
「どうしました?」
「シャノワール侯爵家から君に家庭教師を頼まれた」
予定よりも少し早くなったのですが、私は侯爵家に家庭教師として招かれることになったのでした。
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