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第六章

13.王配殿下

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「お祖母様!妖精さん!」


小さな女の子が私にしがみ付く。
抱っこを強請られたので私は抱き上げて高い高いをする。

「フワフワ!」

「エリーゼや、うちの孫と知り合いだったのか?」

『巡回中にお腹を空かせて泣いていたのでパンと紅茶を差し上げました。その後すぐにお母様がいらしたので』


随分と年の離れたお母様だと思ったけど。


「先ほどお世話になりましたわね。この子は私の孫ですの」

『そうだったんですか』


随分と若いお祖母様だ。
年齢を考えると私のお母様とあまり変わらないようなお歳に見えるけど。


「ちょっと何なのよ!」

「何です!この醜い熊は…今すぐ出て行きなさい」


何故か塩をまかれそうになるも。


ひょいっと避ける。


「なっ!」

『もういっちょ!』

反対側から塩をかけられそうになるも私は軽く交わす。


「いいぞ!もっとやれ!」

「何かしら?余興?」

「サーカスみたい!」


拍手に調子に乗り私はボールを投げて即座に傘で回す。


『何時もよりも多く回しております!』

「わー!すごい!」


女の子は嬉しそうにはしゃいでいた。


「まぁ、芸達者だ事。実に面白いわ」

「おい!もっと芸をしてくれ!」

「可愛い!何処の魔獣かしら…あら?パンデランドって書いてあるわね」


着ぐるみのお尻に書いている文字を見てお客さんは立ち上がる。


「ねぇ、行ってみましょう」

「そうね。口直ししたいし」

「パンも悪くないわね」


一人、また一人と立ち上がって行く。


「パンを食べるならパンデランドが一押しじゃぞ」

「ちょっと…」

「最高の持て成しに楽しいひと時。少なくとも客を選ばんし、素晴らしい接待を受けられるぞ」


お爺さんが声高らかに告げる。


「私はこの店に入る前は心をときめかせていた…しかし、この店に入ったばかりに今日の気分は台無しじゃ。そなたは客をもてなすという意味を理解していないのではないか?」

「は?何言って…」

「確かに最高の食材を仕入れたが、調理法がダメじゃ。見せかけだけで客が本当に求めるのは何か、何故わざわざ店に入って食べるか解っておらん…落第点じゃよ」

お爺さんは厳しい表情をする。

さっきまで私達のお店で優しい表情をされていたのに。

何故?

「女王陛下!王配殿下!王女殿下!」

そこに騎士が入って来た。


「ここにおられたのですか!勝手に出歩かれては困りますぞ」


「固い事を言うな。今日は祭りじゃ。国同士の外交の前に楽しみたかったんじゃ」


お爺さんがブロード王国の王配殿下?


あのお菓子を世に知らしめ、スイーツの礎を築きあげたと言っても過言ではない方。


「汚い恰好で老害で悪かったのぉ?お嬢さんや」


私が呆然とする中、お爺さんはマリアンヌを睨みつけ冷ややか視線を向けていた。


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