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第五章
37.贈り物
しおりを挟む大帝国とも呼ばれる国のお姫様なのに、実に庶民的で倹約家な人だ。
おにぎりを平らげた後に食後の緑茶も気に入ってくれた。
「ナプキン綺麗ですわね」
「これは私が刺繍したものです」
「まぁ、エリーゼ様はお針もお上手なのですね」
お上手と言われても、貴族令嬢が使うハンカチよりも簡単な柄なんだけど。
それに刺繍は」前世でもずっとしていたし、転生後も伯母様に習っていたからそれなりにはできる。
でもこの世界にはハイスペックスキルな人が多い。
私のあくま手作り感満載でプロの作品からは遠い物だった。
例えるならお母さんが作ったハンドメイド作品と、一流のプロが作った作品程に差がある。
「温かみのある刺繍。この花は牡丹ですわね」
「はい、薔薇も好きなんですけど。牡丹も好きなんです」
薔薇よりも優しい花で、気品あふれる牡丹は気高さを感じる。
「エリーゼ様は本当に教養が高いのですね」
「いえ、私はそこまで…」
「専門的に学ぶのとは別にしても様々な分野を学んでいる貴族派少ないですわ。清の国の花を親しまれる外国の方は少ないですし、牡丹の素晴らしさをちゃんと理解されています」
普通に好きだからだけなんだけど。
何故だろうか?
文林様のそうだけど。
清の国の人は私を過大評価している気がする。
まぁ、ロミオ様もそうだけど。
「それに刺繍は基礎ができていなければなりません。見たところかなりの熟練ですわね。エリーゼ様のお歳でここまでしっかり縫えるお針子はいませんわ」
「そっ…そうですか」
実は通算すれば刺繍は三十年近くしている事になります。
前世と現世を合わせたらですけど。
「確かに職人が作った完成された刺繍は完璧です。でも、エリーゼ様の刺繍は温かみを感じますわ」
「そんな…大袈裟です」
「でも、この花を刺繍する時に強い思いを込めたのではありませんか?私は物に触れると思念を見ることができるのです」
帝国の人はそんな事まで!
エスパーなのか!
「とっても素敵な刺繍ですわ」
「その…良かったら差し上げます」
「え?よろしいのですか」
実は言うと、文林様と鈴明様にも贈り物をしようと思っていた。
「こちらは?」
「文林様と鈴明様へ」
「まぁ、お二人がお好きな百合と花菖蒲でございますね」
清の国ではアイリスを花菖蒲と呼び、この花は万国共通で天使が伝令に使う花とされている。
そしてもう一つ、紫は高貴な色とされているのだ。
「白百合をお祖父様に花菖蒲をお祖母様、そして牡丹を私にとは…」
「牡丹よりも薔薇の方がよろしかったでしょうか…」
実の所、牡丹の刺繍はそこそこなんだけど、薔薇はイマイチだった。
「いいえ、嬉しゅうございますわ。ありがとうございます」
「はい」
気を使わせ過ぎたのかと悔やんでしまったが、後に私はとんでもない勘違いをしてしまった事に気づくのだった。
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