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第二章
29.薬箱
しおりを挟むこんな時私はどうしたら良いか解らない。
精神年齢はアラサーであるが、気の利いた言葉は何一つ浮かばないのだ。
もし王子様なら涙を拭い、慰められるのだけど。
私にされても嬉しくないだろう。
想像しても、ないなと思うが、濡れた制服を見ると下着が透けている。
「ラースさん」
「サーシャとお呼びくださいエリーゼ様」
「えっ…」
さっきうっかり馴れ馴れしく彼女を名前で呼んでしまっていたのを思い出す。
「ごめんなさいね?馴れ馴れしく」
「いえ…嬉しかったんです。すごく…嬉しくて涙が」
「ん?」
怖くて泣いていたんじゃないのか?
何で私に名前を呼ばれてうれし泣きをする必要があるんだろうか?
いやそれよりもだ。
「とにかくこれを」
バサッと上着を掛ける。
「えっ…」
「濡れているし、下着が透けているから」
「あっ!」
急いで隠そうとするサーシャは真っ赤になるが、顔を歪める。
「どうしたの?」
「何でもありません」
「見せて」
悪いと思ったけどスカートを少し捲ってみると膝から血が流れているのを見て私は携帯用の水筒と救急箱を取り出す。
「エリーゼ様、薬を持ち歩いているんですか?」
「私は魔力がほとんどないからね。治癒魔法なんて全く使えないから」
サーシャのように治癒魔法を使えればこんなものは必要ない。
でも私のように魔力がほとんどない人間は必須アイテムだ。
「そちらは?」
「ポーションの原料の水。これも私の必須アイテムよ」
普通の水と違って皮膚の再生を促す効果がある。
聖水ならポーションも要らないのだろうけど、そう簡単に手に入らないから。
「少し沁みるけど大丈夫?」
「はい」
汚れを流して、薬を塗布して包帯を巻けばなんとかなるだろう。
「すごい、手慣れていますね」
「あはは…私、魔力がまったくないのに、子供の頃は良く走り回って怪我をしたのよ。だから持ち歩くようになったの。後は伯母の影響かしら」
「エリーゼ様の伯母様?」
前世の頃からハーブを嗜むのは趣味だったけど、本格的に勉強しなおしたのはシェリラ伯母様の為でもあった。
「母の姉に当たる人なのだけど、伯母は体が弱くて、薬草を学ぶようになったの」
ハーブティーは滋養にも良く、病気の予防にもなる。
精神的な安定になる事もあり領地でハーブの栽培を教わったりもしていたし、心の癒しにもなった。
「私は幼い頃は王都方は慣れた領地の田舎で育ったの。だから私は変わり者なのよ」
苦笑しながらも笑っているう私を見て彼女はどう思っただろう。
高位貴族でありながらも、威厳の欠片もない私をどう思うだろうか。
周りは優れて才能あふれているのに、こんなにも頼りない貴族令嬢で、寮長であることを幻滅しないだろうか。
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