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第一章
32.侍女の企み~ベッキーside
しおりを挟む私の名前はベッキー・リーセント。
貧しい田舎貴族出身で、負債を抱えた我が家は政略結婚をした。
貴族なんて言っても商家や中級階級の平民よりも貧しく、私は家を救う為に売り飛ばされたようなものだった。
嫁ぎ先のリーセント伯爵家でも暮らしぶりはそう変わることはなかった。
夫は別邸に愛人を囲い、借金を作り夫婦生活は冷めきっていたが、別に嫌悪することはなかった。
それが普通だと思ったから。
ただ自分の不幸を嘆く事は幾度もあった。
こんなしょうもない価値のない男に嫁がされる私は不幸だった。
でも、ここで終わる気はない。
私はこんな惨めな一生を過ごす気は毛頭ないのだから。
私には幼少の頃から憧れている人がいる。
ユアン・スチュアート。
私の幼少の頃からの付き合いのある友人で、同じ伯爵家でも産んで程違う。
スチュアート家は資産家で貴族の中でも名家だった。
特にユアン様は一族の中でも身目麗しくも優秀なのに気取らず優しい方だった。
私の運命の人はあの方だった。
幼い頃から仲良くしていたし、学校ではクラスは違うけど交流は続いていた。
だから何時か私を迎えに来てくれると思っていた。
なのに、ユアン様はあろうことにもあの女と結婚をした。
相手は身分だけしか取り柄の無い女だった。
王族の親族だからって、特に秀でた物なんてないのに!
優秀なユアン様は婚約者がいる女を奪い取る形で妻に迎えた。
社交界では婚約者は別に好きな女がいる噂になっていたが、別におかしい事じゃない。
貴族社会では結婚と恋人は別なのに、傲慢な女で恋人がいるを嫌がる我儘な女だった。
他人の前ではかまとどぶって本当に嫌な女。
生まれた時から侯爵家の大事な一人娘として蝶よ花よ育てられ、私の愛する人を奪った。
その頃私は不幸のどん底だった。
リーセント伯爵家は、凡庸な旦那の所為で日に日に落ちぶれ、面倒な姑も文句ばかり。
私は侍女として働きに出なくてはならなくなった。
そんな折、神は私を見捨てなかった。
偶然にもスチュアート家で侍女として仕えることになった。
これは運命だわ。
私とユアン様は赤い糸で繋がっているのだと思った。
貴族社会では、妻よりも傍付きの侍女が愛人として優遇されることがある。
だからこそ私はこの立場を利用して、邪魔なあの女を追い出そうと思ったけど、私が動かなくとも天は見方をしてくれた。
そう、運命は私の味方をしてくれたのだ。
華麗なる一族と呼ばれたスチュアート家から死神が生まれたのだ。
精霊の加護を持っていると言っても、一族に厄災を招く悪魔を出産し、一族に不幸を招いたのだ。
社交界では呪われた一族と呼ばれるようなったので、少しだけ噂を追加してやった。
ユアン様が不在の時に、あの小娘に少し軽い冗談で母親の病気は悪魔を出産した所為だと言い聞かせたり、寝る前に聖書の話をして悪魔祓いや聖女伝説の話をしてやれば、怯えるようになった。
まるで人形のように表情を変えなくなった。
精神を壊せば後はどうにでもできる。
伯爵家は私の物になると思っていた。
なのに、魔女が現れたのだった。
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