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第一章
12.除菌
しおりを挟む邪魔者は部屋から追い出した。
「セバスチャン」
「はい」
「すぐに換気と、この香水の香りを除菌よ」
「こちらに」
除菌スプレーを差し出すセバスチャンは流石だ。
「エリーゼ様…」
「汚染を除菌しますので」
この部屋の一番の汚染の元となるのはあの侍女だ。
あからさま過ぎるあの侍女は自分の立場を理解しているのか。
「何者です、あの女は」
「夫の親族で古い付き合いがあるのです。名をベッキー・リーセントと申しまして。以前からスチュアート家に仕えていたそうで…でも、嫁ぎ先が没落してしまったと」
「旦那様の情けで雇っているのですが、幼少期からの友人というだけで立場を理解せずに困っておりました」
侍女の中には主に近い存在だと勝手に勘違いしたり、信頼を置かれているから妻よりも距離が近いと思い込んでいる者も多い。
明らかにあの女はそれだ。
傍仕えにしては、態度が酷い。
イズラ程解りやすくないけど、言葉一つ、一つが攻撃的だった。
まるでサブリナ様を蔑むような目を向けている。
「私の体が弱い事もあり、夫のサポートをしてくれているのです」
「そうだったのですか」
顔には出さないようにして、言葉を飲み込んでいるのだろう。
体が弱い所為で社交界でも噂を流されているのに笑って耐えている。
「せっかく来てくださったのに申し訳ありません」
「いえ、サブリナ様はお強いのですね」
「え?」
私のお母様も当初は跡継ぎが産めないプレッシャーに悩まされ。
挙句の果てに長女が私で色々噂をされたし、お父様は他所に仕事で度々家を空けることが多くなり他所に女性を囲っているのではという噂が流れた。
その所為でイライラして精神的にも滅入っていた。
最後は爆発して夫婦の危機が訪れたのだ。
「私の母は不満を爆発して喧嘩…いえ、母が一方的に怒って家出寸前になりました」
「まぁ…」
「最終的には母の誤解だったんですけど。不満があるなら怒る方が良いと思いま…いえ、失礼しました」
ついポロリと思った事を口にしてしまった。
流石に無礼だったのでは…。
「ふっ…ふふっ…そうね」
「奥様…」
「ジリアン様なら耐えるよりも怒るのが安易に想像できるわ」
サブリナ様は怒っていない。
むしろ楽しそうに笑っていて安堵した。
「サブリナ様にはお元気になって欲しいです。でないユアン様が寂しくて死んでしまいます」
「え…」
「確かに旦那様はウサギのようですからね。奥様がお元気がないと…」
「セバスチャンまで」
私から見ても二人は夫婦というよりも付き合ったばかりのラブラブな恋人同士に見えて仕方ない。
「そうね…早く元気にならなくては。でも…何を食べても味がしなくて」
「ならまずはこれを食べてみてください」
コンソメのゼリーを差し出すとサブリナ様は目を見開いた。
「黄金のゼリー?」
「へ?」
窓から入る日差しに反射してゼリーが黄金のように輝いていた。
「こんなに美しいゼリーは初めてだわ」
「奥様、こちらはエリーゼ様がお作りになったのです。せめて…せめて一口だけでも」
「ええ…」
スプーンを手に取りサブリナ様は一口食べた。
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