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序章
10.白紙になった婚約
しおりを挟む私の婚約が決まってから公爵家ではお祝いモードだった。
成人前であるけど、婚約者が決まって本当に良かったと喜ぶお父様とお母様に少しの罪悪感がある。
この婚約は同盟を結ぶ物でもあるのだから。
ロベルト殿下は弟君を権力争いから守るべく私と婚約した。
私自身も、後の訪れる破滅を回避するためだ。
ゲーム上とは異なり私はロベルト殿下と出会う前から前世の記憶を取り戻している事もあるが、ロベルト殿下の本性も知っていたので良き友人関係でもあったのだ。
まぁ、ロベルト殿下は自分の責務を全うする覚悟もある。
私を婚約者として迎えた後は大事にすると約束までしてくれて、見た目の派手さとは異なり結構真面目だったりする。
「お嬢様、ロベルト殿下より花束が届いておりますわ」
「まぁ、なんて豪華な薔薇」
「ロベルト殿下は真面目な方だったんですね」
社交界では数多の女性に甘い言葉を囁き、遊んでいる噂もあった。
その所為で、婚約者を作らずにいたとも言われていたのだ。
本当は遊び好きの王子の振りだったんだけどね。
後は弟君に群がる令嬢を排除していたとは、知らない人が多いのだ。
「でも、良うございましたわ。お嬢様を大切にしてくださる方で」
「ラン…」
ああ、胸が痛むわ。
将来的には婚約は解消されるのよ。
ヒロインが登場したら多分。
選ぶルートによって異なるけど、フラグが立てば必ずヒロインに惹かれるだろうし。
そうなれば――。
ごめんなさいラン。
「エリーゼ、早く支度をなさいな。殿下と乗馬のお約束でしょう?」
「はいお母様」
私は大の馬好きであることから乗馬だけでなく競走馬の見物も好きだった。
ロベルト殿下は狩りが得意だったので、同行させてもらうことになったのだった。
けれど、私は知らなかった。
私の運命を揺るがすような出来事が起きてしまうなんて。
「エリーゼ!しっかりしろ!」
「お嬢様!お嬢様ぁ!」
どうして、こんなことになってしまったのだろうか。
頭が割れるように痛い。
私はどうして――。
「残念だけど、婚約話は白紙になったわ」
「お母様…」
「どうして、あんまりだわ…エリーゼの婚約が折角決まったのに」
ただ家族が、皆が幸せになれる道を進みたかった。
でも、それすら許されないのだろうか。
私が物語を変えよとした咎を受ける事になってしまった私は――。
殿下と一緒に王宮内の馬場で名馬を見っている最中に暴れ出し私は馬に蹴り飛ばされ頭に傷を負ってしまった。
顔に傷がある令嬢を王子妃に迎えることはできず私の縁談は白紙になるそんな最中、マリアンヌの婚約話が持ち上がった。
でも――。
「嫌よ、どうして私が伯爵家に嫁がないと行けないの!呪われた一族になんて嫁ぎたくないわ…長女は老婆のような髪で、伯爵夫人は降嫁した方じゃない!絶対に嫌よ!」
マリアンヌのお相手はスチュアート伯爵家のロミオ様だった。
この縁談は以前から持ち上がっていたが、私の婚約話が出たことにより先送りにされていた。
だが、私がこうなった以上は、マリアンヌの婚約をこれ以上伸ばすわけには行かないとの事だった。
「マリアンヌ。ロミオ様は大変優秀で…」
「母君は伯爵家に降嫁された方でしょ?母君は病気を患い息女は醜い顔立ちで、呪われているって社交界でも噂になっているわ。そんな家に嫁いだら一生の恥よ…公爵家の名前に泥を塗るような物じゃない」
「マリアンヌ!なんて事を」
「お父様は陛下に押し付けられたのでしょう?宰相閣下が陛下に頼み込んだのだわ。家臣の癖になんて身の程知らずなの!」
痛む体に鞭を打ち私は立ち上がる。
「お嬢様、いけません…歩ける体ではないのですよ」
私はこれまで、マリアンヌに憎しみの感情を抱いたことはない。
高圧的な態度を取られても仕方ないとさえ思ったけど、これだけは許せなかった。
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