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136不愉快な男
しおりを挟む貴族派で最近勢いがあるのはこれまで目立たなかった東南部の領地を治めるエスカルダ家だった。
大貴族と言う程ではないが、何代も続く貴族だ。
ただし彼等を皆、風見鶏と呼んでいた。
何故ならどっちつかずだからだ。
数年前も戦争になりかけた時期、早々に王都から離れて領地に逃げ込んだ。
二十年前は領地内で大飢饉が起きた時には領地持ちの貴族達は領民を守るべく奔走したのだが、彼等は早々に門を知閉じた。
貴族街と下町を繋ぐ門を早々に閉じて平民を見捨てるように助言したのも彼等だと聞く。
戦場で戦う騎士達に対しても、戦火が近づく事を恐れ協力を全くしてくれないどころか、宿に止める事も食料を寄付するルートも強引に止めさせたのだ。
当の本人はその責任を部下に押し付けてこう言った。
「記憶にございませんな」
等と。
非常に食えない男で狡猾な男でもある。
そんな男は私に接触を図って来た。
「この度は誠におめでとうございます」
「ありがとう」
「以前からシオン様には一目置いておりました。領主としても騎士団団長としての器は見事な物で」
口だけは本当に回るな。
「良く言うな」
「本当ですね?騎士など所詮は捨て駒と言いながら団長を馬鹿にしていた癖に」
笑いながら目がまるで笑っていないチャールズとテネシー。
言いたいことは解るがな。
腹の中で何を考えているか解らない男だ。
「あの姫様がまさかと…」
「素晴らしい良縁に恵まれたんだ」
「さようでございますが。夫婦愛とはすばらしい…今時珍しいですな」
隣で歯ぎしりする音が聞こえる。
「こいつ、殺していいですか」
「耐えろ。私もすぐにでも串刺しにしてやりたい」
二人の目がどんどん鬼になって行くがここは我慢だ。
「シオン様は昔からお優しい方でしたな。周りの者を憐れみ騎士道を貫かれて」
「憐れむ?」
「ええ、平民の哀れな者に手を差し伸べられて…本来なら視線を合わせるなど論外な情夫等に」
酒の所為で口が軽くなったか。
だが今はまだ我慢だ。
「情夫とは誰の事だろうか」
「ハハッ、あの薄汚い褐色肌の男ですよ」
そうか。
この男はディアッカをその頃からそんな目で。
「まったくスラム街の人間が騎士になるとは…先代国王が甘すぎたのですな」
最終的には陛下まで馬鹿にするとは。
酒に含ませた薬がそろそろ効いて来たようだな。
予め計画していたとしても殴ってやりたい。
ディアッカを侮辱するなど!
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