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86劇の始まり
しおりを挟む披露宴会場に最初から参加していたのは王族派と貴族派の穏健派だけ。
過激派はずぶ濡れになっている彼等だ。
「貴殿達は挙式にも参加しないで何をしておられたのだ」
「それは船が…」
「船の時間はちゃんと報告をしておいたはずだ。仕事だって調節されてたはずだ…にも拘らず遊んでいたのか?」
「そんなはなずは…」
「ならばその甘い香水はなんだ?」
大臣から香るのは独特の香水の匂い。
花町で流行っている者なのだが、問題はその香水の香りだった。
「まぁ、なんて事」
「花町で遊んで遅れたというの?」
「ふざけているわ!」
女性の招待客も少なくない。
特に節度に厳しい女王が治める国の出身者は軽蔑の眼差しを向ける。
「どういうことなのシオン…何で」
「何故と申されましても困るのですがね」
どうしてここでそんな目で見られるんだ。
大体私と彼女の関係は終わっているのに馬鹿なのか。
「サンドラ様、来てくださって嬉しいですわ。少しアクシデントがあったようですが」
「何ですって?」
「ずっと心配しておりましたのよ」
リディア様が私の腕を掴みそっとサンドラ嬢に近づく。
「えっ…」
「あの女優とリディア王女は知り合いなのか?」
周りは注目し、耳を傾ける。
事情を知らない者からすれば驚く事だろう。
「過去に色々ありましたが、今日は私の大切な日。元婚約者であった貴女はこうしてお祝いに来てくださったのでしょう」
「なっ!」
サンドラ嬢が信じられないと言うような目で見る。
それは周りも同じだった。
「リディア様!どういうことです」
「そうです…元婚約者?」
「これはオフレコになっているのですが、元は彼女と夫は婚約者にありました」
大勢の視線に晒されながらリディア様が静かに告げる。
「私は幼少期夫に出会い恋をしましたが…ですが私は当初は余命宣告を短命とされました。そんな私が許される恋ではありませんでした」
「私自身も、派閥争いにより政略結婚を受け入れました」
「ですが、私が夫を諦めきれないが為に」
周りは驚くも非難する声はなかった。
むしろリディア様はを見守るような目をしていた。
「愛の無い政略結婚とは言え、サンドラ様には申し訳ない事をいたしました」
「悪いのは私です。サンドラ嬢と良き関係を築けなかったのです。出世もできず、伯爵止まりの私では彼女の理想になれなかったのです」
リディア様の手を握りながら私も弁解する。
すると流れは完全にこちらに向いた。
「ごめんなさいシオン様、私は悪い女ですわ。例え何を失っても貴方だけは奪われたくなかった」
「いいえ、私もです」
予告通りの台詞だが演技ではなかったのだから。
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