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第二章
3.侯爵閣下の求婚
しおりを挟む試食会には新聞記者も取材に来ていた事から、サン・マルシェは大反響だった。
宣伝する必要もなく既に、予約が殺到していた。
おかげで、嬉しい悲鳴が続き、忙しい日々が続いていた。
現在では他国の貴族が気に入り、観光した後には必ず寄って行くようになったぐらいだった。
今では王室御用達のブランドを取り戻し、王都一番の名店と帰り咲いていた。
「いい店だな」
「ええ、頑張ってくれていますので」
オーナーとしてではなく客として食事に来たフレデリカとヴァルトラーナはランチを堪能していた。
「メインの料理も素晴らしいが、デザートも見事だ」
「ええ、この飴細工の花がとっても美しいですわ」
「ああ、君のように美しい」
さらりと甘い台詞を言われ、喉に詰まりそうになるフレデリカは急いでお茶を飲んだ。
「この店が生き返ったのは君の手腕によるものだ。君は聡明で美しい黄金を纏う女神のようだ」
「あっ…あの」
酸っぱいはずのベリーのケーキが甘ったるく感じるのは気のせいではない。
「ヴァルトラーナ様…」
「フレデリカ、私は君を愛している」
「は?」
さらに喉を詰まらせるようなことを告げるヴァルトラーナにぎょっとする。
「なっ…何を」
「聡明で美しく強い君に私は惹かれていた…しかし君には婚約者がいたので諦めたが、婚約破棄になれば問題ない。私の妻になって欲しい」
「はい?」
そっと手に触れ指を絡めてくるヴァルトラーナに真っ赤になるフレデリカ。
実の所、こういったスキンシップになれていなかった。
社交界では地味だとか美しくないとか散々な言われ方をしたので、慣れていなかった。
たまに既婚者で遊び好きな男が珍味を摘まみ食いしたいというゲスな男が言い寄ることはあったが、そういう男は適当にあしらっていたが、ヴァルトラーナは誠実で飾った言葉を使うことはしない。
ようするに本音だったので余計に質が悪かった。
「私はこの通り面白みがないかもしれない」
「いえ、そのような…」
「青春時代は仕事ばかりで遊ぶこともなく侯爵家の当主としての仕事ばかりしたつまらない人間だ」
「ご立派かと」
自分の悪い部分を熟知しているので、ヴァルトラーナはどれ程面白くない人間かを告げるも、フレデリカからすれば尊敬するものばかりだった。
幼くして両親が他界した後には、侯爵家を守るべく身を粉にして働き。
良き、当主として、良き領主、良き王族である事に努めて来たと聞いている。
その対価に幼少期から今まで自由な時間はなく青春時代は公務と仕事に追われていたのも解る。
むしろ立派だとも思った。
何所を恥じる必要があるのかと思う。
その一方で困ったのは――。
「私は君のような女性に初めて出会った。博識で、芸術に精通し、詩が読めて政治が語れる」
「小賢しい女と罵られましたが」
「一歩後ろを歩く女性ではこの先を生きて行くことはできない。しかし、君ならば、未来を閉ざされた女性に希望を与えてくれるだろう。私に希望を与えてくれように」
「そんな大それたことを」したことはありません」
色々とぶっ飛びすぎていたのが困りものだった。
ヴァルトラーナは好意を持った対象に対してはあまりにも素直だった。
初めて恋をしたのがフレデリカで遅すぎる初恋だったのだ。
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