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第一章
22.レシピ
しおりを挟む試食会を一週間前に控えたその日にすべてのレシピを考案した。
「フレデリカ、これが新しいメニューなのか?」
「姉さん、やたらと薬草が多いんだけど」
テーブルに並べられたのは大量の薬草・ハーブだった。
他にも野菜が大量に置かれていたのに対して肉は鶏肉だけだった。
「今回私が考案したのは体に優しい野菜とハーブを使った鶏肉よ」
「スープは?」
「シンプルにしたわ」
宮廷料理では具だくさんのスープが多いのだが、フレデリカが考えたのは、鶏肉と野菜を煮込んで汁だけを取ったスープだった。
「黄金のスープ…」
「しかし、シンプル過ぎるな」
「いいえ、違います」
マーシャルが思わずスプーンを握った。
「この食欲をそそる香りに黄金のように輝く色」
一口食べると目を見開く。
「美味しい…シンプルながらもすごく上品な味」
「美味いが、物足りない」
「それでいんです。前菜とスープはあっさりした味でなくてはなりません」
コースメニューのメインの味を引き立てなくてはならない。
「肉は鴨肉を使いソースはオレンジソースをそのまま使いますが果肉も添えます」
「華やかですわね…では」
「酸っぱい味が悪くない!」
三人は鴨肉ロースの味に驚く。
鴨肉に苦みのあるオレンジソースと果肉が抜群だった。
「鴨肉は牛肉や豚肉よりもあっさりしていますし、体にも良い。それに女性に好まれます。霜降り肉よりも価格を抑えられますわ」
「確かに、霜降り肉は油が多いですが体には良くないのです。ですから、どの店も量を少なくします。」
「こちらは安全で美味いを重視します」
過度な飾りつけで見た目だけ豪勢にしても、食材が悪ければ意味がない。
何より、安全で安心な食事こそが生きるための糧になるはずだと思っていたフレデリカは必ず勝利を確信していた。
「高級料理店としてではなく、今日を生きる食事を作りましょう。何より貴族は冷めきった料理が多い」
「ええ、毒見をしますので」
「ならば、できるだけ冷めないように工夫するんです。器をギリギリまで温め、スープの温度を保てるようにして、最高の状態で提供すればいい」
「試食会ではレストランと同じようにはいかない…そうか!その手がありましたわ!」
フレデリカの言葉にマーシャルはヒントを得た。
常に温度を保つ調理器具を用意して、最高のコンディションで食べてもらう。
そうすれば勝てないわけはない。
「最後はマーシャルさんの腕にかかっています。貴女のおもてなしの心…マニニュアル通りではできません。貴女の素晴らしいおもてなしの心で勝ってください」
「フレデリカ様…ありがとうございます」
レシピの考案は完璧だった。
最後の一手を決めるのは、マーシャルのおもてなしの心。
食べる人への思いが本物であるならば、必ず審査員は気づくと確信があった。
「王室御用達の料理人としての底力を見せつけてください。貴女は誰よりも素晴らしい宮廷料理人です」
「ありがとうございます。必ず勝利してみせますわ」
二人は握手を交わし、一週間後に行われる試食会に臨むのだった。
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