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第一章
17.ばったり遭遇
しおりを挟む店の前に立つ、フレデリカに声をかけたのはヴァルト―ラナだった。
傍には老執事も伴っていた。
「お嬢様、このような場所にいかがなさなったのですか?」
ロジャーは怪訝な表情をした。
「いえ、その…」
「この店に何か用事か?」
ヴァルトラーナの表情も芳しくなかった。
「最近、このレストランが人気と伺ったので…少し」
「まぁ、噂にはなっているが…」
何とも言えない表情をするフレデリカは、この二人がどうしてここまで嫌そうな顔をする理由が解らなかった。
外装は少しばかり派手だが、普通のレストランのように見える。
「フレデリカ嬢はこの店に興味があるのか?」
「興味というよりも…その」
ここに来た理由を話してもいいのだろうか?
王室御用達のレストランの経営が危ないので、その原因となったレストランを調査に来たとは言いずらい。
「商売人としての好奇心ですわ。王都には星の数ほど、レストランがあるのに対して、この店がいきなり繁盛した理由を調査したいと思いまして。近づいか我が家も新しい商売を考えておりまして」
「新しい商売?」
「ええ、外国の貴賓の皆様をお招きするサロンですわ。勿論宿泊も考えておりますの」
嘘は言わず、その場をごまかした。
将来的には、王都でサロンを増やし、尚且つ宿も考えていたのは本当だ。
「確かに、目の付け所が素晴らしいですな」
「ああ、斬新だが、合理的だ」
フレデリカの言葉に二人は納得した。
その為にも、人気の店を下調べしておきたい気持ちは理解できるのだ。
「最近は歴史ある老舗レストランの経営も難しいと聞きましたので、新しい物を取り入れるのもいいかと思いまして」
「まぁ…そういう考えもあるか」
フレデリカのもっともらしい意見にヴァルトラーナは納得する。
「でしたら私達もご一緒させていただけませんか?」
「おい、爺!」
「私はお腹がすきました。喉も乾いてしまいまして…しかし、こんな年寄りには入りづらい店でしてね」
ヴァルトラーナを流し目で見ながら、フレデリカにお願いをする。
か弱い老人の振りをして、フレデリカと食事をする作戦に身を乗り出しながら小声を告げる。
『この際、店の質は問いません。お嬢様との親睦を深めるのです』
『何を言うか…彼女には婚約者がいるんだぞ』
ヒソヒソ話す二人の声は、フレデリカに聞こえていないのが幸いだった。
対するロジャーは。
『存じております。その為に私がいるのです。二人きりでは問題ですが…この爺がいれば誤魔化せるではありませんか』
『お前はか弱い振りをして…』
侯爵家の有能な老執事は中々の腹黒でもあった。
「お嬢様、老いぼれの我儘を聞いてくださいますでしょうか?」
「まぁ、私もご一緒してよろしいのですか?」
「勿論でございます。むしろお願いをしたいぐらいです」
そしてスイッチの入ったロジャーはこれ幸いと言わんばかりにフレデリカにお願いをして、奇妙な組み合わせのランチが始まるのだった。
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