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第一章

15.サン・マルシェ

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その夜、久しぶりに家族そろって外食をすることになった。
長らく邸を空けていたが、しばらくは王都にいると聞かされフレデリカははしゃいでいた。


「家族そろって食事なんて久しぶりね!」

「姉さん、はしゃぎすぎだよ」

馬車の中で、嬉しそうにするフレデリカを見て苦笑しながらもセシルは嬉しそうだった。


今日行くレストランは貴族御用達の、サン・マルシェという店だった。
元は宮廷料理人を取り仕切っていた料理長が王宮を出た後に店を構えたと言われている。


料理の味は勿論のこと、見た目も美しく芸術的な事から、美食家としても有名な王妃陛下のお気に入りだった。

値段も高額なので、貴族でも頻繁に通うのは難しいはずなのだが…




疑問を抱きながら馬車が到着すると、店の前には二人の男性が出迎えてくれた。


「ようこそ、お待ちしておりました」

「サン・マルシェにようこそ」


馬車から出てすぐに、エスコートをしてくれた年若い男性二人に案内されるとシェフが現れる。


「お待ちしておりました。ルメルシェ様」

サン・マルシェのオーナー自ら出迎えられる。
彼女の名は、マーシャル・キャンティー。


元宮廷料理長を務め、平民でありながらも王妃陛下からも料理の腕を絶賛された程の持ち主だった。


「本日はどうぞぐゆるりとおくつろぎくださいませ」


マーシャルが席に案内し、深々と頭を下げながらその場を去る。


「噂通り素敵なお店、美術品も素敵ね」

「姉さんったら」

仕事抜きで食事に来ているが、常に商売の事を考えているフレデリカは職業病だった。


「だって、こんな素敵なお店をいずれ商会でも作れたら素敵だわ」


外装も美しいが、内装も完璧だった。
広くくつろげるスペースに、カーテンの色は白で統一されながらも、飾られている美術品を引き立てさせるように計算されている。


そして何より料理が素晴らしかった。
色鮮やかな芸術品で客を喜ばせながらも、さることながら味も完璧だった。


「この赤貝と野菜のコントラストがすごく綺麗だね」

「味も変わらずだな」


前菜サラダから豪華で味も申し分なかったのだが、一口食べて違和感を感じた。


「舌平目のムニエルでございます」

「わぁ、香ばしい香り」

「これも美味いな」


二人は美味しそうに食べるも、フレデリカは食べながら考え込んでいた。
勿論味は期待していた通り完璧だったが、食べる速度が二人に比べてゆっくりだった。


「ご満足いただけたでしょうか?」

「ああ、相変わらずだね」

「ありがとうございます」


マーシャル本人が挨拶に来ていたが、表情が少しばかり暗く感じた。


「味はどうでしたか?」

「ああ、言うことないよ。なのに、どうしたんだい?客が以前より少ないね」


この店に入ってすぐに違和感を感じたのは客が以前より少なくなっていた事に違和感を感じていた。


「実は、その事で皆さんをお招きしたのです。最近新しく似たような店ができまして」

「似たような店?」

「はい、しかも料理も真似られてしまいまして…その所為で客を取られるようになったんです」

量よりも質を考えているサン・マルシェなのだが、一部の貴族からは反感も買っていた事から営業妨害を受けていた。

「私は長年、王妃陛下にお仕えしていました。あの方の元で鍋を振るい続けた実績もあり、自身もありましたが、似たような店を幾つも建てられ、ソースの味を盗まれてしまったのです」

「何?」

高級レストランにとってソースの味を盗まれることは死活問題だった。
料理自体を真似することはできても、ソースを真似することは難しいのだから。

「それでも、当店を贔屓にしてくださる貴族の方がはいらっしゃるのですが…悪い噂を流す連中の所為で」

困った表情をするマーシャルは沈黙を守っていたフレデリカは遠慮がちに告げた。


「味はどの店にも負けませんし、店内の雰囲気も素晴らしいものでした。たが気になったのが、魚介の鮮度でしょうか」


「鮮度?」

「ここは王都で、海から離れています。運んでいる間に鮮度は悪くなり…最近では貝の出荷率が落ちていると聞いています。その状況下では上手く行かないでしょう」

「あっ…」

魚介をふんだんに使った料理が売りのサン・マルシェだが、昨年度から魚介があまり取れなくなった。


「しかし、この店では質のいい魚介を使かっているね」

「はい、お客様にはできるだけ体の良い物を食べていただきたくて」


どんなに魚介の値段が高騰しても、お得意様には体に良い物を食べて欲しいと言うのがマーシャルの信念だったが、客足が途絶え、今では王室御用達の看板を返却すべきだと言う声が上がってしまってる。

「今度の試食会で勝負することになっているんです。もし負ければ王妃陛下の顔に泥を塗ることになります。王太子妃時代より、私を引き立ててくださったというのに」

「マーシャル…」

「お願いでございます。フレデリカ様…どうかお助けください」


マーシャルは深々と頭を下げる。
フレデリカもなんとかしてあげたいが、安請け合いしていいものではないのだが…


「解りました、お任せください」

「ちょっと姉さん!」

フレデリカは引き受けてしまった。
セシルは思わず声を上げてし合ったが、商人魂に火がついてしまっては、誰にも止められなかった。


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