12 / 55
第一章
12.笑顔
しおりを挟む侯爵家の邸は煌びやかに見えるが見た目だけの美しさではなく美術館のようだった。
飾られたに美術品、絵画は国宝級の物だった。
「まぁ、なんて美しい細工なのかしら」
「お嬢様はお目が高いですな。このグラスはガラス職人の最高傑作なのです」
切子のグラスに目を奪われる。
ブロッサム商会は食器輸も営んでおり、器も大好きだった。
「宝石等よりもずっと素晴らしいですわ」
煌びやかな宝石よりも切子のグラスの方が美しく輝き楽しませてくれる。
目で楽しみながら、会食等でこのグラスを使えばどれだけ楽しめるだろうか。
「光に照らすと星が見えるわ」
無邪気な表情をしながら、グラスを太陽に向けるフレデリカを責める者は誰もいなかった。
ずっと周りの目を気にして、理不尽な罵倒にも耐え続けていた。
そんなフレデリカを見るのが辛かったセシルは心から感謝した。
「侯爵閣下、ありがとうございます。姉のあんな楽しそうな姿は久しぶりに見ました」
「セシル殿…」
「婚約が決まってから、姉はずっと無理をしていました。心から笑える時間は無くなり、心を殺す日々でした」
特に外では仮面をかぶり続け、気丈に振舞って来た。
理不尽な命令に、心無い噂に傷つくことはあったが、負けたくなかった。
何より多忙な父の代わりに家を守り、セシルと商会を守りたかった。
弱音も愚痴も零すことなく、気丈に振舞いながらも精神的にキツイと感じていることをセシルは知っていた。
「私が不甲斐ないばかりに姉は…あんな男と」
もし母が生きていれば変わったのだろうか。
幼くして亡くなった母の代わりをしてくれた姉は、少女として守られた期間があまりにも短すぎた。
不本意な婚姻を結ばされるも、伯爵家に嫁げば商会を広げることができる。
下級貴族のままよりも、できることは増えるからという考えもあったのは否めない。
だとしても、ローガスの態度は許せるものではなかった。
「失礼ですが、子爵様は御存じなのですか?」
「姉が上手く隠してますし…あの男は父が不在なのを利用しています」
王都にルメルシエ子爵がいるときは、表立って暴言や暴力を振るうことはないあたり、質が悪かった。
「姉も隠していますし」
「隠すと言っても限度がありますが…嫁ぎ先も外聞が悪いから隠ぺいしてそうですね」
老執事が嘆かわしいとボヤキながらも告げる。
伯爵家はローガスの態度の悪さを知らないわけではないと思う一方で、何の手も打たない事に疑問を抱く。
「相手は伯爵家なのでこちらから婚約破棄をしても、責められるのは姉なのです」
万一にも悪いのがローガスだったとしても、世間はどう見るか明白だった。
挙句、ローガスはあの通り、頭が緩い。
社交界であることない事を触れ回れば、フレデリカの名誉をこれ以上無いほど傷つけるだろう。
「セシル殿、悲観する必要はない」
「侯爵様?」
「確かに理不尽な扱いを受けているが、姉君は聡明で心映えの美しい方だ。正しい振る舞いをする者がずっと不当な扱いを受けていいはずがない」
世の中、ずる賢い人間が得をすると言われているが、そんなものは長く続かないと思っていた。
「他者を虐げる様な人間は天から裁きが下るだろう。だから、君もそんな顔をしてはならない」
「はい…ありがとうございます」
弱気になるセシルは、ヴァルトラーナに慰められ笑顔を取り戻すのだった。
26
お気に入りに追加
2,837
あなたにおすすめの小説
パパー!紳士服売り場にいた家族の男性は夫だった…子供を抱きかかえて幸せそう…なら、こちらも幸せになりましょう
白崎アイド
大衆娯楽
夫のシャツを買いに紳士服売り場で買い物をしていた私。
ネクタイも揃えてあげようと売り場へと向かえば、仲良く買い物をする男女の姿があった。
微笑ましく思うその姿を見ていると、振り向いた男性は夫だった…
継母の心得 〜 番外編 〜
トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】
【完結】いつも微笑んでいる侯爵様とニコリともしない伯爵令嬢のお話
まりぃべる
恋愛
アルフォンシーナ=ソルディーニは、滅多に笑わない。何故ってそれは、あるトラウマがあるから。
外見は怖いけれど、いつも微笑みを絶やさない侯爵令息は社交界で女性達から人気がある。
アルフォンシーナはその侯爵令息と話す機会があり、そしていつの間にかトラウマが解消されて昔のように可愛く笑う事が出来るようになり、溺愛されつつ結婚する事となりました。そんな二人のお話。
☆現実世界とは異なる世界です。似たような表現、名前、地名、などはあるかと思いますが、現実世界とは異なります。
☆まりぃべるの世界観です。現実世界とは似ている単語をなんとなくの世界観で造る場合があります。
☆設定は緩い世界です。言葉遣いも、緩いです。そのように楽しんでいただけると嬉しいです。
☆話は最後まで出来上がっていますので、随時更新していきます。全31話です。
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
平凡を望んだ私が、なぜ侯爵と結婚して、溺愛されることとなったのか?
コトミ
恋愛
顔も性格も普通の男性と結婚し、子供を産んで、平凡な人生を歩むことを望んでいたソフィは、公爵子息であり、侯爵のケイトを両手で突き飛ばしてしまった事で、人生が天変地異が起こったように逆転してしまう。
「私は女性に突き飛ばされたのは初めてだ!貴方のような方と結婚したい!地位や外見に振り回されず、相手を突き飛ばせるような女性と!」
(こんな男と結婚なんて絶対に嫌だ。私が望んでるのは普通の人生であって、こんなおかしな男に好かれる人生じゃない)
かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました
お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる