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第一章

12.笑顔

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侯爵家の邸は煌びやかに見えるが見た目だけの美しさではなく美術館のようだった。
飾られたに美術品、絵画は国宝級の物だった。


「まぁ、なんて美しい細工なのかしら」

「お嬢様はお目が高いですな。このグラスはガラス職人の最高傑作なのです」

切子のグラスに目を奪われる。
ブロッサム商会は食器輸も営んでおり、器も大好きだった。

「宝石等よりもずっと素晴らしいですわ」

煌びやかな宝石よりも切子のグラスの方が美しく輝き楽しませてくれる。
目で楽しみながら、会食等でこのグラスを使えばどれだけ楽しめるだろうか。


「光に照らすと星が見えるわ」


無邪気な表情をしながら、グラスを太陽に向けるフレデリカを責める者は誰もいなかった。


ずっと周りの目を気にして、理不尽な罵倒にも耐え続けていた。

そんなフレデリカを見るのが辛かったセシルは心から感謝した。

「侯爵閣下、ありがとうございます。姉のあんな楽しそうな姿は久しぶりに見ました」

「セシル殿…」

「婚約が決まってから、姉はずっと無理をしていました。心から笑える時間は無くなり、心を殺す日々でした」

特に外では仮面をかぶり続け、気丈に振舞って来た。
理不尽な命令に、心無い噂に傷つくことはあったが、負けたくなかった。

何より多忙な父の代わりに家を守り、セシルと商会を守りたかった。
弱音も愚痴も零すことなく、気丈に振舞いながらも精神的にキツイと感じていることをセシルは知っていた。


「私が不甲斐ないばかりに姉は…あんな男と」

もし母が生きていれば変わったのだろうか。
幼くして亡くなった母の代わりをしてくれた姉は、少女として守られた期間があまりにも短すぎた。


不本意な婚姻を結ばされるも、伯爵家に嫁げば商会を広げることができる。
下級貴族のままよりも、できることは増えるからという考えもあったのは否めない。

だとしても、ローガスの態度は許せるものではなかった。


「失礼ですが、子爵様は御存じなのですか?」

「姉が上手く隠してますし…あの男は父が不在なのを利用しています」

王都にルメルシエ子爵がいるときは、表立って暴言や暴力を振るうことはないあたり、質が悪かった。


「姉も隠していますし」

「隠すと言っても限度がありますが…嫁ぎ先も外聞が悪いから隠ぺいしてそうですね」


老執事が嘆かわしいとボヤキながらも告げる。
伯爵家はローガスの態度の悪さを知らないわけではないと思う一方で、何の手も打たない事に疑問を抱く。


「相手は伯爵家なのでこちらから婚約破棄をしても、責められるのは姉なのです」

万一にも悪いのがローガスだったとしても、世間はどう見るか明白だった。
挙句、ローガスはあの通り、頭が緩い。

社交界であることない事を触れ回れば、フレデリカの名誉をこれ以上無いほど傷つけるだろう。


「セシル殿、悲観する必要はない」

「侯爵様?」

「確かに理不尽な扱いを受けているが、姉君は聡明で心映えの美しい方だ。正しい振る舞いをする者がずっと不当な扱いを受けていいはずがない」


世の中、ずる賢い人間が得をすると言われているが、そんなものは長く続かないと思っていた。

「他者を虐げる様な人間は天から裁きが下るだろう。だから、君もそんな顔をしてはならない」

「はい…ありがとうございます」

弱気になるセシルは、ヴァルトラーナに慰められ笑顔を取り戻すのだった。


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