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第一章
11.招待
しおりを挟む貴族街にある、豪邸。
王宮に近しい程の立派な邸に広い庭園だった。
「姉さん…」
セシルも招待されていたが、あまりの広さに固まっている。
「お帰りなさいませ旦那様」
「ただいま爺」
「随分お早い帰りで…」
老執事は最初こそは笑顔を浮かべていたが、フレデリカを見た瞬間表情が変わった。
「旦那様…」
「お茶の用意…いや、着替えの用意を」
「かしこまりました!」
老執事は疾風の如く速さでその場から去って行った。
「さぁ、お手を」
「えっ…きゃあ!」
馬車から降りようとしたフレデリカを抱き上げるヴァルトアーナに驚く。
「足に負担をかけない方がいいでしょう」
「ですが…」
驚きのあまり声を失うが、急いで拒否しようとするも。
「お願いします」
「セシル!」
味方だと思ったセシルまでも、ヴァルトラーナの味方となってしまっていた。
そして、邸に招かれたフレデリカはというと。
「さぁ、こちらにお召替えを」
「え?あの…」
「お嬢様の肌は真珠のように透き通っておいでですわね。羨ましいですわ」
「髪飾りは、こちらにいたしましょう」
三人の侍女に面倒を見られて、着せ替え人形のようにされる。
一時間後、着替えを終えたフレデリカは美しく着飾られていた。
ドレスは一級品で王族や高位貴族が着る様な絹のドレスで着飾られており、鏡に映る自分の姿を見て目を疑う。
フレデリカは普段から清楚な装いをするも、派手な装いはしなかった。
慎ましやかな淑女であることを心掛けていたからだが、着飾れば美しい令嬢になるのだ。
特に髪を結った姿は本当に美しく侍女達は見惚れていた。
「髪結師としてこれ以上の喜びはありませんわ」
「ええ、化粧師として嬉しいですわ」
「お針子として鼻が高いですわ」
世話を焼いてくれた侍女達は、元は王宮に仕える侍女だった。
才能を見込まれ侯爵家に仕えている彼女達にとって、腕を振るえることは喜ばしい事だった。
「失礼する」
タイミングよく現れたヴァルトラーナはフレデリカを見る。
「美しい」
「え?」
「やはり貴女は、空が青く美しいように、薔薇が赤く美しいように…美しい」
歯が浮くような台詞を真顔で言われ絶句した。
「ぐずっ…グスン。あの坊ちゃまが…爺は嬉しゅうございます」
「女性に興味の欠片もなく男色家の疑いすらあった坊ちゃまが…ああ、夢ならあ冷めないでください」
何故か使用人一同がハンカチを噛みしめ泣いている。
(これはどういう状況かしら?)
これまで大抵のことで動じなかったフレデリカも動揺していた。
いきなり邸に招かれ、ついた先は豪邸。
王族ぐらいしか着ることができない絹のドレスを着せられてしまえば仕方ない。
「紳士様、本当によろしいのでしょうか」
「どうかヴァルトラーナと」
微かに微笑む姿は、色気が半端なかった。
元から整った顔立ちをしているのだが、不愛想な男が微笑むと破壊力抜群だった。
これまで男性は高齢者の相手がほとんどで、後は父親の仕事関係者。
同年代は、紳士とは言えない連中ばかりだったので、正直戸惑っていた。
真正面から口説かれたことは初めてだったからだ。
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