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第一章
2.一人で帰宅
しおりを挟む突き飛ばされてしまったフレデリカは鞄を抱きしめながら安堵する。
「良かった、デザイン画は無事だわ」
鞄の中には大切なデザイン画に商売道具が入っている。
「服は汚れてしまったけど大丈夫ね」
ローガスに置いて行かれたしまったフレデリカは歩いて邸に帰っていく。
「後でお父様にどうやって言い訳をしようかしら」
迎えの馬車の支払いはローガスがしなくてはならないが、普段から飲食の支払いをフレデリカにさせているのでお金を持っているとは思えない。
「また、後で文句を言われるのでしょうね」
きっと馬車を降りた時に、支払いを求められるだろうがツケ払いにさせられるのかもしれない。
もう慣れてしまったが、ローガス曰く。
「婚約者であるお前が支払うのは義務だ、子爵家は俺の財産になるのだからな!」
このような始末だった。
「何を勘違いしてるのかしら」
通常婿養子になったとしても、ローガスに継承の権利はない。
遠い昔には、婿養子を跡継ぎにすることが主流であったが、今では女性が継承することも珍しくない。
特に新貴族等では女性が爵位を持つ事もあるのだから。
何を思って、ローガスは子爵家の跡継ぎになり、財産をすべて自分の物にできると思っているのだろうか。
「ルメルシエ家の時期当主はセシルなのに」
フレデリカの弟でもあり、次期当主として期待されているセシルが一人前になるまではあくまで後見人として支えるつもりでいるフレデリカは商会の実権の一部ですら、ローガスに任せる気はない。
何故なら商売の事を全く理解していないローガスに任せれば、潰れてしまうからだ。
ブロッサム商会は千人以上の従業員を抱えているので、少しの判断の間違いが、彼等を路頭に迷わせることになる。
そんな真似は絶対にできないと思っていたからこそ、婚約をする際には誓約書にも一筆書いてもらっていた。
「誓約書の意味を理解していればいいのだけど」
フレデリカはローガスが残念な頭をしていることを理解していたが、誓約書を理解できない程残念だとは思っていなかった。
「姉さん!」
「ただいま、セシル」
「ただいまじゃないよ!何で歩いて帰って来ているの?しかも、外は雨じゃないか!」
弟のセシルは雨が降り始めているのに濡れたまま帰って来たフレデリカに大慌てでタオルを用意する。
「すぐに湯を」
「かしこまりました」
侍女に命じてすぐにお風呂の準備をさせ、部屋の暖炉に火を焚く行動は早かった。
「まさか、またローガスに何かされたの!」
「何もされていないわ」
「嘘言わないで、本当にいい加減にしてよ!普段は姉さんの金で飲食して、馬車だって!」
セシルはローガスが大嫌いだった。
事あるごとに姉に暴言を吐き、夜会では嫌がらせのように他の令嬢をパートナーとして同行させる。
あげくに壁の花にしている癖に、夜会に参加しないことは許さず苦痛な時間を与えて楽しんだいる。
セシルにとってフレデリカは母親代わりだった
早くに母親を亡くし、父親は仕事にかかりきりだったので、フレデリカが育ての親のようなものだった。
誰よりも優しく聡明な姉に屈辱を味合わせ続けるローガスが許せないセシルは、婚約解消になればいいと心の底から願っていた。
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