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第三章
6.姫と騎士
しおりを挟む数か月前までは馬鹿にしていた男は既に雲の上の存在になっているのが不愉快に感じていたが、ロイド自身は国の為に何一つしていない。
だから噛みついても仕方ないのだが…
「ごきげんようアンシー伯爵」
「王女殿下」
「今日も相変わらず麗しいわね?ダンスは誰の手を取るのかしら?」
不敵に微笑みながら美しい所作で挑戦的な目で見つめるアンジェだった。
「お望みのままに」
「フフッ」
当然の成り行きのように、挨拶のキスを手の甲にし、二人は騎士物語の姫君と騎士の如く美しくダンスを踊る。
「まぁ、なんて美しいのかしら」
「本当に絵になりますわね」
まるでロイドの存在を忘れた貴族達は二人のダンスに魅入っていた。
「噂ではお二人は婚約を恋人どうしだとか」
「まぁ…ですが、身分から言っても釣り合ってますわ」
「そうですわね?辺境伯爵のご子息で、既に伯爵位をお持ちですもの」
「財力、地位、血筋、功績は申し分ありませんし。妹君は竜の国の女王様ですもの」
誰もが二人がお似合いだと褒めちぎる。
以前から二人は懇意な仲であったが公ではそんな素振りを見せなかったのだ。
だが、今は気にする理由がなくなったのだ。
それというのも、リリアーナが嫁ぐ前に条件として出した中にも含まれていた。
「またダンスが上手くなったのではなくて?」
「王女殿下に恥をかかせるわけに行きませんので」
「何時になったら名前で呼んでくださるの?」
「お許しください」
条件の一つで領地と兄を出世させることを望んだ後にリリアーナはもう一つ条件をつけた。
もし、ルーカスが自身の力でアンジェに釣り合うだけの地位を得ることができたならば、二人の仲を認めて欲しいとの事だった。
王は、その条件を飲んだ。
しかし条件の中には、伯爵以上の地位を得る事。
そして近衛騎士の副団長以上に出世することを条件とした。
その条件をクリアし、王は二人の仲を認めたのだ。
「お父様の条件はクリアしましたのよ?」
「まだですよ。貴女を陛下から奪うには侯爵の地位を得なくてはなりません」
「まぁ欲張りです事。この国の王女の心を奪うだけでは足りませんの?」
「貴女を妻に迎える為にも悪女とあの男を完全に引きずり降ろす必要がありましょう?」
ダンスを踊りながらかなり恐ろしい事を口にしているなど第三者は知る由もない。
背後では睨みつけるようにルーカスを睨むロイドがいようとも。
「無様です事。少し前までは、あの馬鹿女と茶番劇を演じてましたのに」
「劇はまだ終わってません。最高の形であの二人を破滅に導きます。我が妹を侮辱した罪の重さを知ればいいのです」
優雅に微笑みながら二人は愛する者を侮辱し傷つけた仕返しを企てていたのだった。
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