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第二章

37.民の声

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「意義あり!」


群衆の一人が声を上げ、異論を唱える。


「何です?」

「神父様、司祭様、先ほどから一方的な裁判をされているようですが…被告には一切の発言権に弁護人がおらずして裁判というのはいかがなものでしょう。相手は竜妃でもあらせられた方です」

「それは…」

「通常、どんな裁判でも弁護する代理人を置くのが決まり。これでは魔女狩りをした野蛮な宗教権力者と同じではありませんか?それとも相手が人間故に差別しておられるのか、それとも女だからでしょうか」


声を上げるのは神殿にも出入りが許された下級貴族の令嬢だった。
他にも神殿に入っている修道女も賛同しているように頷いていたので、混乱が生じる。


「確かに…おかしいな」

「何故、弁護人がいないんだ?」

「さっきから一方的だ」

色眼鏡で見ていない者達は最初から違和感を感じていたが、何も言えないでいた。
しかし女性達の発言により、疑問を口に留守事ができた。


「司祭、公正な裁判をする為にも弁護人の設置を求めます」

「なっ…貴女は」

「お久しゅうございますな」


顔を隠した一人の修道女が姿を見せる。

その人物は女司教だった。


「私が不在の間に起きた事件を耳にしましてね?急いで帰還いたしましたのよ」


「司教、イヴ様!」


「弁護人を認めます。前へ」


「ありがとうございます。リリアーナ嬢の弁護士を務めさせていただきます、イヴ・モードと申します」


眼鏡をかけ黒いスーツを着込む長身の女性が舞台に上がり、状況は変わり始める。


「それでは、リリアーナ嬢を弁護させていただきたいと思います。その上で証人をこの場に同行する事をお許しください」


「なっ…そんな事許されるはずが…」

「静粛に、認めましょう」

「司教!ふざけるな!」

ガイアンは感情的になり、言葉を荒げる。

しかし、それこそが墓穴を掘った事は明らかだった。


「おい、公平な裁判なのに、何で反論するんだ?」

「やましい事があるんじゃないか」

「裁判に弁護人を立てられたら、まずいなんて…それに、さっきから裁判の進行がおかしいと思ったけど」

「司祭もグルだったとか?」


ガイアンの発言は自分で自分の首を絞めた。


「案外、主犯は大公様じゃないかい?」

「よく考えて見な!リリアーナ様は常に傍付きや護衛がお傍にいるんだ…単独行動は難しいよ」

「そうだ、そうだ!聡明と言えどまだ幼い彼女がどうやって国に災いを招くんだ!」


「さっきから聞いてれば、司祭は罪人と決めつけ上から目線だ!」


そしてそれに便乗し女性陣が声を上げ、裁判は予想外の展開となるも。
司祭が口を出さないように告げるも。

「私達は平民代表者だ。口を挟む権利はある。許可証だ」

「なっ…」

「後は署名も提出させてもらうよ。裁判には罪人の疑いをかけられた者が冤罪だった場合、国の七割以上の署名を集めたら再度調査が行われるだろ?」

「リリアーナ様の身の潔白を望む署名だ!」


(馬鹿な!ありえない!)

民の七割の署名を集めるなど短時間で行われるはずはない。
裁判が行われると発表したのは一週間前で、平民達に情報がいきわたったのは三日前だ。

僅か三日で七割の署名を集めるなんて無理があると思ったが書類には直筆のサインと辺境伯爵達の紋印も押されていたのだ。


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