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第二章

29.残された時間

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表向きは大人しく牢屋に幽閉されているリリアーナだったが既に布石を投じていた。

ガイアンはこのまま、イサラを失脚させるべく帝都に悪い噂を流しているのだろう。
王宮が爆破されたのは天の怒りである。


その噂を流し、民の不安を煽るつもりなのだろう。

「暗黒竜の呪いではなく、悪女の呪いに仕立て上げる方が効果的ね…噂をもっとわざと過激にできるかしら?」

「妃殿下…」

「敵を欺く為よ。そうだわ、民が私を脅威だと思い込ませ。反乱軍を英雄に仕立て上げましょう」


終始笑顔を崩さないリリアーナはもう止まらなかった。
やると決めたらと事にゃる主義のリリアーナは自分が悪役を演じ、最終的には断頭台に立たされることも厭わなかった。


(一年も満たなかったけど…それでもいいわ)


リリアーナはひょっとしたら、天が自分を選んだ理由が解った気がした。


(天は私にイサラ様を守れと命じているのかもしれないわ)

生贄として差し出された意味。
暗黒竜と恐れられている竜帝は支配者なんて言葉は似合わない。

優し過ぎたのだ。
良き竜帝になるべく努力し、リリアーナにも良くしてくれた。


だからこそ、自分の役目はあの優しくて天然な竜帝を完璧な形で帝位させることだと思った。


「お別れですね陛下…」


きっと明後日には決着がつくだろう。
ガイアンは既にリリアーナを罪人に仕立て上げ、大勢の前で処刑する手はずを整えている。


しかしその時が最大の好機だった。
ガイアンの懐に忍び込み悪事を明らかにする為に布石を投じている。

そしてもう一人の敵にもだ。
今頃リリアーナが投獄されたことで浮かれているであろうパイドラを思い出す。

「あんな女を竜妃にしたら、竜達が苛められるわ。そんなの許さない」

帝国で過ごした時間は、リリアーナに幸せな時間をくれた。
優しく満ち足りた時間だったからこそ、これからも帝国は優しい時間が流れることを望んだ。


「ガイアンが用意した反乱軍もろとも一掃するには犠牲がつきもの…イサラ様を英雄にしなくてはならない。弱気を助ける竜帝として」


これが自分にできる事。

「剣を隠し持っていて良かった」

祖国を離れ、帝国に来た時から肌身離さず持っていた剣を握る。


お引渡しの時に護身剣として餞別代りに渡されたものだ。

通常の剣とは異なり女性がでも持ちやすいので隠すことができた。


「この天空を守りし白竜様、どうか…イサラ様をお守りください」


死ぬのが怖くないわけじゃない。

本当は怖いが、それ以上のもっと怖いものがあった。





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