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第二章

16.愛しの白百合

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王宮に嫌な香りが漂う。
甘ったるくて、吐き気がしそうな香水の香りを思い出すと幼少期の辛い記憶がイサラを苦しめる。


「陛下、顔色が…」

「大丈夫だ。しばらく嫌な香りがしなかったから」

昔はここまで香りで酔う事はなかった。
リリアーナが来てからイサラは優しい香りに包まれ幸福な日々を過ごしていた。


キツイ香水の香りは太陽と百合の優しい香りで消され。
悲しい過去の記憶は塗り替えられ、悲しい記憶を断ち切ってくれた。


共に食卓を囲み、誰かと食事をするのがこんなにも幸福であることを思い出させてくれたのだから。

「早くお嫁さんに会いたい…白百合に僕の手料理をお腹いっぱい食べて欲しいよ」

「いえ、今朝も陛下は厨房に立っておられたではありませんか」

「でも僕の手でアーンはしてないよ」

「する必要がありますか?雛鳥でもあるまいし」

「何を言うんだい!僕の楽しみだ!」


バンと机を叩き怒るが、周りからすれば惚気にしか聞こえないが本人は真面目だった。

「僕のお嫁さんに会いたいよー」

「はぁー…」

既にヘタレモード全開のイサラに側近達は頭を抱える中、竜騎士の一人が鏡を出しだす。


「陛下、こちらを」

「ん?これは…」

「ロッテンマリア様より、預かりました。こちらの鏡で妃殿下と話す様にと」


「流石だ!」


早速鏡を手に取り、己の血痕を誑し念を込めた。

「鏡よ、鏡よ、世界一可愛い僕のお嫁さんの姿を映しておくれ」

「陛下…」


態々呪文を唱える必要はないのにあえて言うイサラに誰もがドン引きしていた。

そんな中、鏡は光を放ち、リリアーナの姿を映し出す。


『陛下?』

「ああ、僕のお嫁さん!」

「陛下、落ち着いてください」


鏡に向かって笑み崩れるイサラを見ると残念な気分になる。

「元気にしていたかい?」

『はい、でも寂しいです』

「ああ!僕の白百合はなんて可憐なんだ…可愛くてツライ」

「良かったですね…」


もう勝手にしてくれ。
この場にいる者は全て独身だったので見ていられなかった。


(((このリア竜め!)))


殆ど当てつけに近しかったのだが、本人達は幸せそうだった。


『陛下、明日は一緒に食事ができますか?』

「ごめんね、まだ無理なんだ。本当は君と一緒に食事をしたいけど…今は厄介な鬼が忍び込んでいるんだ。鬼退治さえ終わればすぐにでも君の好きなお菓子を作るよ」

『鬼…ですか?』

「うん、すごく危険で陰湿で醜い鬼だよ。美しい君が汚されては大変だ」

言いたい放題である。
本人が聞けばまず激怒して暴れるのだが、イサラはお構いなしだった。


彼からすればリリアーナは可憐な白百合で、パイドラは毒を撒き散らす毒薔薇でしなかいのだった。


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