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第二章
14.守るべきもの
しおりを挟む手紙が届いて翌日にパイドラが王宮に押しかけて来た。
既に訪問と言えるモノではなく、王宮の騎士を押しのけ女官達にも傍若無人な振る舞いをしては、ロッテンマリアは困り果てていた。
「女官長、お茶が気に入らないとパイドラ様が」
「お部屋が気に入らぬと…」
「すぐに陛下に謁見させよと…」
勝手に来て、早々に我儘放題を言う、パイドラに苛立ちが募る。
しかし、ここで感情的になった方が負けだった。
「お茶に関してはいいでしょう」
「ですが部屋を、竜妃宮に変更しろと言って聞きませんわ。あちらのお部屋は姫様の」
「むろん、答える必要はございません」
現在、竜妃宮はリリアーナの居住となっている。
元々は正妃が済むことが許される宮殿であり、竜帝宮のすぐ隣だった。
王宮内には宮が存在し、地位によって異なっている。
白い薔薇や白百合で囲まれた美しい庭園に囲まれた宮殿がリリアーナの住まいとなっている。
周りには竜馬や、泉の中には竜牛が住み着いている。
竜馬に関してはペットとしてイサラが与えたモノで。竜牛はポセイドンが何時でも海界にこれるようにと送ったのだ。
双方共に、リリアーナがお世話をしているのだ。
竜族でも、竜騎士以外で竜馬を持つ事はまずないので稀なのだが。
「どうせ、勘違いをしたのでしょう?竜馬をご自分の為に用意したとか」
「はい…本来の宮に早く通せと仰せに」
「はぁー…何処をどう勘違いしたらそんな発想ができるのでしょうか?王宮を追放された身であることを理解しているのでしょうか?夫を捨て逃げたというのに」
クーデターが起きたあの日、我が身可愛さにすたこらさっさと逃げた事は今も忘れていない。
にも拘らずいざ、イサラが新たな竜帝に選ばれたら手のひらを返したのだから。
「あの厚かましい態度に図太さはありえませんわ」
「ええ、あんな女が竜妃になれば帝国は今度こそ滅びます。白竜様の怒りが下りましょう」
竜妃という肩書は決して軽くない。
竜帝の寵愛を受け、美しく着飾られるだけの妃と思うなら大きな間違いだった。
「竜妃とは、この帝国の切り札です」
「はい…」
「竜帝陛下を支え、陰から国を守る存在でなくてはなりません。あんな傍若無人な方に務まるはずがありませんわ。妃として何一つ役目を果たすどころか、帝国に混乱しか呼ばなかったのです」
今のクリステリアはようやく基盤が整いかけて来た。
二つの大樹も息を吹き返し、まだ小さくとも大樹に蕾が咲き始めたのだ。
二つの大樹に癒しを与えたのは、外ならぬリリアーナだった。
既にリリアーナは歴代の竜妃が成し遂げられなかった偉業を確実に行っている。
本人に自覚はないが、全ての行動が竜帝を支えているのだ。
「リリアーナ様を廃妃に等許されません。なんとしても竜妃宮から遠ざけるのです!」
「はい…」
なんとしてもリリアーナを守らなくてはならない。
イサラの為にも、クリステリア帝国の未来の為にも――。
しかし二人の思いとは裏腹に、その願いは叶わなかった。
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