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第二章
13.少しの痛み
しおりを挟むその日は何かおかしいと感じた。
何がおかしいと聞かれれば解らないが、何時もとは違うと感じていた。
(変だわ…)
普段ならば三食の食事とお茶の時間は必ずイサラは部屋に尋ねて来てくれる。
執務をこっそり抜け出して一緒に過ごす時間を過ごしてくれた。
用が無くても頻繁に執務室を抜け出しては竜騎士副団長であるディーンに強制連行されるのだが、今日は一度も見ていない。
今日は執務が忙しいとの事で缶詰になると言われていたのだ。
竜妃の公務もあるので、リリアーナは何時も通り二つの大樹にハープの音色を聞かせていた。
「妃殿下、いかがなさいましたか?」
ハープの音色に違和感を感じるディーンはいち早く異変に気付く。
「ディーン、王宮で何かあるの?」
「え?」
「姫様、どうなさいました」
傍についているメイリンも表情を変えることはなかったが、内心では冷や汗を流す。
「今朝から、王宮の様子が変だわ」
「何か不都合がありましたか?」
「相変わらず陛下の手料理は美味しかったけど…でも変だわ」
(陛下…やはり通常通りに料理されたんですか!)
そこは変わらずだったので呆れてしまった。
「風の動きが違う…大樹が騒めている」
「大樹が?」
「私がここに来てからずっと私を見守り続けてくれた大樹が不安がっているようにも感じた。風の動きも早田と早いの…」
「妃殿下」
人間とは言え、鋭い感性を持つリリアーナは五感を集中させていた。
普通では聞こえない物が聞こえ、見えない物も耳を済ませれば聞こえた。
「私は北の辺境地を守る一族。常に風の声に耳を傾け大地の声を聞いてきました。だから解ります」
大樹にそっと触れると不安が伝わって来る。
「私は神様ではないから植物に声が聞こえるわけではありませんが感じる事ができる。それがアンシー家の治癒師が受け継ぐ能力の一つでもあります」
人と異なる種族と共存をして来た一族故に聞こえてくるのだった。
「風が揺れ、何かを忠告しようとしている。陛下の様子もおかしく感じました」
「姫様…」
「ただ、私が知るべきことではないのか、言う必要がないのか…陛下が何もおっしゃらないなら私は聞く気はありません」
元より政治に口を挟める立場でもないと理解していた。
(私はハリボテでしかないのだから…)
最初から解っていた事なのに胸の奥が少し痛いと感じるのだった。
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