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第二章
12.不吉な手紙
しおりを挟む王宮に届いた手紙には黒薔薇の紋章が描かれていた。
別名黒薔薇とも呼ばれる薔薇でもある。
「これはどういうことだ。彼女は前皇帝の妃で、現在は廃妃となったも同然だ」
「はい、ですが…妃殿下にご挨拶したいとの名目で訪問されるそうです」
「そんなの信じられるか」
調子のいいことを言って、竜妃の座を諦めたとは思えない。
未だに諦めていないのは解っていたが、前竜帝の妃は次代の竜帝の妃になることはできない。
余程の理由がない限りは。
ただし、背後に厄介な人物がいるならば別だ。
「大公様が背後にいる以上は…断れないでしょう」
「叔父上…」
「恐らく、妃殿下に何か仕掛けてくるのは明白です。陛下のいない所で妃殿下が人間だと言う理由で難癖をつける可能性もあります」
イサラは手で顔を覆った。
帝位など欲しかったわけではない。
本来なら第一皇子が皇帝になるはずだった。
しかし内乱が起きて愚かな兄達は誰よりも優秀な兄を追いやった。
そして共倒れのように兄達は殺し合い、そして生き残った第三王子は一年にも満たない竜帝となるも。
第三皇子は欲深く長としての器もなく世界樹からの加護もなければ、白竜からも拒絶されてしまったのだ。
その妃も同様にだ。
すべては自分達の行いが悪いと言うのに、今になって何をしようというのか。
「大公もパイドン様も欲深すぎる方です。海皇陛下の後ろ盾を得た事で、今こそ帝国を我が物にしようと考えているのでしょうが…」
「例え僕を殺しても叔父上は竜帝に慣れるとは限らない。それに姉上は竜妃にはなれないよ。例え兄と夫婦の契りを交わしていなかったとしてもね?」
「陛下…」
「彼女に僕の白百合を超えることはできない。僕のお嫁さんは竜妃としての条件を十分に満たしている。何より、今さら廃妃なんてしたら海皇陛下が今度こそ戦争を仕掛けてくるよ」
命の恩時でもあるリリアーナの溺愛ぶりは誰が見ても明白だった。
万一、何らかの理由で廃妃になったとしても、既にリリアーナを認める者が多い中、パイドンを認めるとは思えない。
「いかがいたします」
「白百合の警護を増やして…絶対に姉上に近づけさせないで」
「陛下…しかし」
「僕は夫として彼女を守る義務がある。白百合を傷つけさせるわけには行かない」
イサラにとっても命が危ういのは解っているが、人間であるリリアーナは竜よりもか弱い。
その為優先するのはリリアーナの安全だった。
「頼んだよ」
不安を抱えながらもイサラはどうか、リリアーナに何も起きないことを祈るより他なかった。
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