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第二章
8.前妃
しおりを挟む海界との同盟を正式に結ぶ事ができたおかげで、リリアーナの評判は帝国内で鰻登りだった。
当初は人間を竜妃に迎える事に反対していた者もいたが海皇の後ろ盾を得たので反対の声はほとんどなくなった。
何故ならどの国でも強い後ろ盾があれば文句は言えない。
特に海を支配する竜が公に宣言したという事は、逆を返せばリリアーナに仇名すことがあれば海皇を敵に回す行為だった。
今のクリステリア帝国は大昔ならばいざしらず。
二つの大樹が加護を失った状態なので抗う術ば持ち合わせていないのだが、リリアーナが輿入れした事で二つの大樹が力を取り戻して来ていたのだ。
そうなれば、城下町で暮らす平民達はリリアーナを歓迎しない訳に行かない。
しかも今回の幼い妃は無駄な浪費もすることもない質素で慎ましやかだと噂が流れている。
竜騎士と一緒に視察にも積極的で、平民達が出荷に困っていた竜鶏の卵を王宮に送ってもらい、尚且つ今後は王宮で使用する卵は竜鶏の卵を使うことになり、皇族御用達となったのだ。
農民からすればリリアーナは救世主だった。
そんな事が続き、次々と農家は救出されたのでリリアーナを慕う声は日に日に強くなると並行して前皇帝とその妃に関しての悪い噂が流れた。
前皇帝とは退位して直ぐに亡くなっり、その妃も廃妃となり離宮で生活している。
今でも皇族であることを強調して身分の低い者に対して傲慢な態度を取っている悪しき元妃だった。
ここ西の離宮に住まう一人の女性。
名をパイドラ・アストロン。
前皇帝の妃であるが、皇妃でもなく皇后でもないただの妃だった。
前皇帝陛下も名ばかりで帝位を正式に賜ったわけではない。
ちゃんとした継承の義を受ける前に、クーデターが起こってしまい殺されたと言う噂もある。
その時パイドラは自分の身だけを考え避難していた。
そして事態が収まった時には、他の皇族で生き残ったのはイサラのみだった。
血筋が重んじられる国故に、イサラは棚ぼた形式で次の竜帝となることが決まった。
そうなれば先代の妃や女官は王宮にいることはできなかったがパイドラは離宮に移り住み日陰で過ごすなどプライドが許さなかった。
イサラには婚約者がいないのでそのまま自分が妃となってやると言ったが、許されるわけもない。
何故ならイサラが幼少期に散々苛め嫌がらせをして虐げた相手を妃に選ぶどころか強く拒絶した。
今さら手のひらを返しても意味がないし、竜妃となる条件を既にパイドラは失っていたのだ。
そこにぽっと現れた人間の貴族令嬢。
「何が癒しの姫よ…代用品が!」
バキッ!
「姫様!」
「この私が下等な種族に頭を下げるなんてありえないわ!」
嫌でも流れる噂はこれ以上無い程パイドラの自尊心を傷つけていた。
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