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第二章

6.餞別

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重傷を負ったリリアナ―ナだったが、深海の女神の治癒力によりすぐに回復した。


それまでは良かった。

「さぁ、たんとお食べ」

「はい、ありがとうございます」

何故か海皇とその妻はクリステリア帝国に居座り、リリアーナと仲睦まじく過ごしていた。


「なんて事だ!あの変態親父はリリアーナを愛人にする気か!」

「陛下、言葉をお選びください。相手は深海の王ですよ」

「変態で露出狂だ!やらしい手つきで僕のお嫁さんにアーンをしているぞ!僕の役目だったのに…あんんて酷い男だ。僕の毎日の細やかな楽しみを奪うとは」


柱から睨みつけるイサラは実にカッコ悪かった。


「しかし海皇を怒らせれば帝国は沈みます」

「早く帰ればいいのに…リリアーナも餌付けされてるし」

「そうですね、姫様ははまぐりの虜です」


現在庭で新鮮な貝を網で焼いてもらい、幸せそうに頬張っている。

「どうじゃ?」

「最高です!この蛤最高です」

「中々味の分かる姫じゃ」

「カニ味噌も美味しいです」


海鮮類を堪能するリリアーナを嬉しそうに見るが、第三者から見ればロリコン親父にしか見えない。

なんせ海皇は既に千年以上も生きている大長寿だ。


「姫よ、心から礼を申すぞ。そなたは我が海界の命の恩人じゃ。命がけで偉業を成した事は末代まで語り継がれよう」

「本当に感謝しておりますわ」

「いえいえ…」

お礼にこんな良い思いをさせてもらっているので、感謝するのは自分の方だと思った。


「私はこの通りアシカ令嬢と呼ばれておりますし」

嫁入り前に傷物になったとしても問題ないと思った理由は。


(どうせ食べられるんだしね!その前に陛下に役に立てて良かった!)

後から聞けば、イサラが竜帝になる為には後ろ盾が必要だと聞かされた。
別に狙ったわけではないが、海竜が味方になってくれれば今後は安泰ではないかと思った。


クリステリア帝国に来てからリリアナ―ナ孤独感に苦しむことはなかった。
心細さはあれど、イサラを始めとして、他の竜族達は優しくしてくれた事を心から感謝している。


「海皇陛下」

「パパと呼ぶが良い。おじ様でもいいが」

「はいおじ様」


「うむ」

パパと呼んでもらえなかったことに残念そうにしながらも返事をする。


「陛下をお願いします。あの人は少し頼りなさそうですが、立派になられます。私なんかが申し上げるのは差し出がましいですが…素敵な竜帝になります」

「ああ、なんて意地らしいのでしょう。我らに恩を売ろうとする者は多くとも、このような」

「感動した。任せるが良い…必ずや余があの小僧を立派にして見せよう」


二人は勘違いをしたまま、その一週間後。
餞別代りに銀の竪琴と短い三叉槍をプレゼントして海底に帰って行った。


「ああ、とんでもない物を!」

「人魚の竪琴はとても貴重なのです」

「三叉槍は海皇の子である証なのですが…」


海界を味方につけてしまったリリアーナは後に海皇の加護を得たと言う噂が地上にまで流れるようになり、それと同時にイサラの立場も激変することになった。


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