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第二章
3.意地
しおりを挟む一方その頃、リリアーナは海皇に眠りについている妃を目覚めさせて欲しいと頭を下げられていた。
「私はどうしたら良いのでしょう」
「姫のハープで癒しの旋律を奏でてくれれば良い」
「でも…聖女様ならばまだしも私は治癒師でしかありません」
深海の女神を目覚めさせるほどの魔力はない。
海皇を目覚めさせることができたのはタイミングもあるのではと思った。
「いや、そなたならばできるはずだ」
「解りましたやってみます」
どうしてこうも期待を持ってくれるのだろうか。
人間に対していい感情を抱いていないはずの海皇帝はリリアーナに対してとても優しかった。
その理由は解らないが、期待されれば嬉しいし、何とかしたいと思ってしまう。
何より海はリリアーナにとっても切り離せないのだから。
(大事なお妃様だものね)
リリアーナの父、オーディンは妻を今でも愛している。
きっと海皇も同じなのではないか。
竜族は一途な種族と言われており、番に対しては特にそうだと聞く。
(深海の女神様…どうかお願いします)
リリアーナは妻が目覚めることを誰よりも願っている優しい海皇の為にも目覚めて欲しいと願った。
そこには一切の邪心はなく真心が歌に現れていた。
しかし…
バチバチ!
(なっ…何?黒い魔力!)
ハープを奏でるとまるで癒しの魔法を拒んでいた。
「うっ…」
「姫!」
「大丈夫です」
黒い雷はリリアーナを攻撃し始めた。
「行かん、これは余から力を奪った黒い雷だ!姫…無理をするでない」
「できます!」
黒い雷はリリアーナを狙い強い電流が流れた。
「きゃああ!」
「もう良い、これ以上は…そなたの気持ちは十分じゃ」
海皇は想定外だった。
まさか自分達を苦しめた黒い雷がリリアーナを襲うとは思っていなかったのだ。
リリアーナを傷つけてまで妻の目覚めを望む気はない。
人間を良く思わずとも海皇は優しい心を持ち、子を慈しんでいた。
故にまだ幼い命が散らされることを望んでいなかった。
「これぐらい大丈夫です。私はデブですから…大丈夫です!なんせアシカです!」
「馬鹿を言う出ない。余ですら深手を負ったのだ…人間のそなたでは耐えきれるか」
「耐えきれます!私は戦闘一族の末裔です。役立たずで戦えなくとも、耐え忍ぶ事には慣れています」
ハープを奏でながら、リリアーナは微かに感じ取った。
未だに眠り続けるセイレスの心が流れて来た。
海を守る女神でありながらも役目を果たせない悔しさ。
早く目覚めたいのに何者かに拘束され苦しみ叫んでる声が聞こえたのだ。
「セイレス様は暗い闇の中で必死に叫んでいるんです!私にできるのはこれくらいしかありません!」
「姫…」
黒い雷は勢いを増し、さらに強い雷をぶつけた。
「姑息な真似をして。来なさい…アザラシ令嬢の底力を見せてあげるわ!アシカは皮膚が分厚いのよ!」
かなり頓珍漢な事を言っているが、やる気に満ち溢れた表情で渾身の一撃をぶつけた。
持てるすべての力を使い癒しの魔法をかけ、黒い雷が相殺されたのだった。
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