上 下
35 / 128
第一章

29.石造

しおりを挟む




七つの柱に支えられた神殿の奥深くに進むと、光が灯っていた。


「蛍?」

微かに光それは、大きな扉の前で止まっている。

「ここに入れって事かな?」

そっと扉に手を触れようとした時だった。


「えっ…」

足元に光の線が描かれ、魔法陣が浮かぶ。


ギギギッ!

「扉が勝手に…」

大きな扉が勝手に開かれて、真っ暗だったはずが、リリアーナが歩くと自然に蝋燭に火がついて行く。


「あれ?風だ…」

微かに風を感じたリリアーナは海底なのに不思議に感じた。
導かれるように奥深く進んで行くと二つの石像を見つけ、近づいて行く。


「これは…」

片方は女神の像で、もう片方は三叉槍を手に持っていた。


「これは海の神様?」

聖書でも三叉槍を持つ半裸の男性は海を守護する神であると言われていた。


「すごい、こんな立派な石造が…じゃあ、ここは託宣の間かな?」

キョロキョロ当たりを見渡しも他に誰かいるようには思えない。


「偉大なる海皇様、ご挨拶も無しに宮殿に入ってしまった事を心からお詫びいたします。このような形でございますが、光栄にございます」

アンシー伯爵令嬢として敬意を持って挨拶をする。
北を守護するアンシー家は海の神々にも敬意を持って接するのが当たり前だった。


「リリアーナ・アンシーと申します」


淑女として挨拶をしながら、二つの石造を見上げる。


「もし許されるならばお二人に直にご挨拶できれば嬉しゅうございます」


きっと直に会うのはできないかもしれない。
それずれの世界を支配する三界の王は気難しく気位が高いと聞かされている。


特に海を守る王は人間と接触する事はほとんどないのだから。


今回はタロウを助けた事でたまたま、海底に来ることができたにすぎない。


「偶然ではありますが、美しい海の国に来ることができた奇跡に感謝いたします。そして今まで美しい海を見守り下さり、本当にありがとうございます」

リリアーナは返事が返ってくることはないと解っていながらも話しかけ続け、最後に挨拶の代わりに音楽を奏で始めた。


黄金のハープの旋律と共に歌を歌った。

音楽は神に語る唯一の手段とされていたが、今では迷信だと言われていたが、リリアーナは神様にお話をしたい時は必ず歌ういながら祈りを捧げた。

しかし、聖女でも巫女でもない自分が神と対話できるとは思っていなかったが、せめて祈りだけは届いてくれたらと思った。


(本当なら聖女様が奏でる歌の方が良いのかもしれないけど…)

神の愛し子とも言われる聖女が語り掛ける方が海皇も人魚達も嬉しいだろうと思っていた。

(私でごめんなさい…)

もし、聖女であれば。


きっと彼等は心から喜ぶのだろう。


ふと、切なさを感じたリリアーナは歌い終え、お辞儀をしてその場を去ろうとした。



その時だった。

海皇の石造が強い光を放ち始めたのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔境暮らしの転生予言者 ~開発に携わったゲーム世界に転生した俺、前世の知識で災いを先読みしていたら「奇跡の予言者」として英雄扱いをうける~

鈴木竜一
ファンタジー
「前世の知識で楽しく暮らそう! ……えっ? 俺が予言者? 千里眼?」  未来を見通す千里眼を持つエルカ・マクフェイルはその能力を生かして国の発展のため、長きにわたり尽力してきた。その成果は人々に認められ、エルカは「奇跡の予言者」として絶大な支持を得ることになる。だが、ある日突然、エルカは聖女カタリナから神託により追放すると告げられてしまう。それは王家をこえるほどの支持を得始めたエルカの存在を危険視する王国側の陰謀であった。  国から追いだされたエルカだったが、その心は浮かれていた。実は彼の持つ予言の力の正体は前世の記憶であった。この世界の元ネタになっているゲームの開発メンバーだった頃の記憶がよみがえったことで、これから起こる出来事=イベントが分かり、それによって生じる被害を最小限に抑える方法を伝えていたのである。  追放先である魔境には強大なモンスターも生息しているが、同時にとんでもないお宝アイテムが眠っている場所でもあった。それを知るエルカはアイテムを回収しつつ、知性のあるモンスターたちと友好関係を築いてのんびりとした生活を送ろうと思っていたのだが、なんと彼の追放を受け入れられない王国の有力者たちが続々と魔境へとやってきて――果たして、エルカは自身が望むようなのんびりスローライフを送れるのか!?

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。

克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。 サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。

【第一章完結】相手を間違えたと言われても困りますわ。返品・交換不可とさせて頂きます

との
恋愛
「結婚おめでとう」 婚約者と義妹に、笑顔で手を振るリディア。 (さて、さっさと逃げ出すわよ) 公爵夫人になりたかったらしい義妹が、代わりに結婚してくれたのはリディアにとっては嬉しい誤算だった。 リディアは自分が立ち上げた商会ごと逃げ出し、新しい商売を立ち上げようと張り切ります。 どこへ行っても何かしらやらかしてしまうリディアのお陰で、秘書のセオ達と侍女のマーサはハラハラしまくり。 結婚を申し込まれても・・ 「困った事になったわね。在地剰余の話、しにくくなっちゃった」 「「はあ? そこ?」」 ーーーーーー 設定かなりゆるゆる? 第一章完結

旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。

ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。 実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。

〖完結〗死にかけて前世の記憶が戻りました。側妃? 贅沢出来るなんて最高! と思っていたら、陛下が甘やかしてくるのですが?

藍川みいな
恋愛
私は死んだはずだった。 目を覚ましたら、そこは見知らぬ世界。しかも、国王陛下の側妃になっていた。 前世の記憶が戻る前は、冷遇されていたらしい。そして池に身を投げた。死にかけたことで、私は前世の記憶を思い出した。 前世では借金取りに捕まり、お金を返す為にキャバ嬢をしていた。給料は全部持っていかれ、食べ物にも困り、ガリガリに痩せ細った私は路地裏に捨てられて死んだ。そんな私が、側妃? 冷遇なんて構わない! こんな贅沢が出来るなんて幸せ過ぎるじゃない! そう思っていたのに、いつの間にか陛下が甘やかして来るのですが? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...