竜皇帝陛下の寵愛~役立たずの治癒師は暗黒竜に今日も餌付けされ中!

ユウ

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第一章

閑話1.王と王妃

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リリアーナが悠々自適な暮らしをしている最中、ウィンドル王国では一人の女性が祈りを捧げていた。


ジェリアン王妃は祈りの間でただ祈るだけの時間を過ごしていた。


「どうか、どうか…リリアーナ嬢をお守りください。白き巫女様」


リリアーナが聖女の代わりにクリステリア帝国に捧げられ二日。
公では顔に出さないようにしながらも、内心では気が気でなかったのだ。


「ジェリー」

「陛下…」

「少しは休まぬか。食事もあまり食べておらぬと聞く」


傍に巫女を従え、祈りの間に入って来た王のジェフリーはその手にバスケットを持っていた。


祈りの間は基本、男性は立ち入り禁止だったので巫女を同行させなければ入る事は許されていなかった。


「私は情けのうございます。このような仕打ちを」

「聖女を代わりに、リアンを生贄にするなど論外だ。通常ならば聖女の身内を差し出すのが当然だと言うのに」

「彼女は聖女ではありませんが我が国の癒しの姫ですのに…なんということを」


アンシー辺境伯爵家は、これまで癒しの姫と呼ばれた者が国に貢献して来たのだ。
後方支援であるが、治癒師としての役目は重要だった。

しかし、表立って活躍しておらず。
怪我を治す程度は魔導士も可能で、戦う術もない事で役立たずという愚か者が多かった。


「癒しの姫君の役目は治癒師と、魔獣を抑え込む言霊です。彼女達は魔の存在ですら慈悲の心を持って接し、彼等が敵意を持たないように努めてくれましたわ」

「力でねじ伏せるよりも魔を鎮める方がどれだけ困難か解っている者は少ないだろう」

通常、魔獣を使役するテイマーや召喚師等は戦って魔獣を従わせる。
力で無理矢理契約した後は奴隷のような扱いをする事も少なくないが、アンシー家の歴代の治癒師は決して無理矢理力で押さえつけることはなく、心と心の絆を第一にしてあくまで対等の関係を結んでいた。


だからこそ、長い歴史の中アンシー家は存続できていた。
外敵からも、守護神が領地を守ってくれたのだ。


「聖女の身代わりにだなんて…私はそんなの許したくありませんでした」

「あの馬鹿者めが…恩を仇で返しおって。メイデン侯爵がいかに我が王家の親族であろうが許せん」


メイデン侯爵は王族の親族に当たり、血筋は良いのだが、財政困難だった。
名門であるが、ロイドは典型的な貴族で跡継ぎとしては器がない事をメイデン侯爵夫人が嘆いていた。

そこでメイデン侯爵夫人の兄、王弟殿下がアンシー家の姫であるリリアーナの縁組を結んだのだ。

アンジェとも親しく、辺境伯爵家とも強い絆を結ぶことはデメリットよりもメリットが多かった。

一部ではリリアーナの美醜を悪く言う者はいるが他国ではリリアーナは評判だった。
その理由は、彼女が社交的であることは勿論だが、他人の懐に入る事が上手かったことが一番だ。


以前は敵対関係にある貴族派までも、リリアーナが間に入る事で和解を結んだ実績もある。
ロイドは他人の気持ちを汲み取ることが下手で高圧的な態度もあり、対人関係が悪かったので将来を心配していたが、リリアーナが間に入れば上手く行くと思っていた。


しかしロイドは幼少期から事あるごとにリリアーナにきつく当たり。
自分は家の為に売られた等、自分は不幸だと触れ回っていたので、メイデン侯爵夫人が何度も咎めていたのだが改善されることはなかった。


そして極めつけは今回の出来事だ。
聖女を守る為に婚約者を差し出したことでロイドを持ち上げる者は多少はいるが、年配の貴族達は婚約者を売ったと思う者は多いだろう。


社交界では聖女とロイドが恋人関係で、都合よく婚約者を捨てるのを狙っていたと思う者が多いのだ。


泣く泣く婚約者を手放した立派な貴公子等ともてはやされ、聖女を守ったと言われているが…。

印象は悪くなる一方だった。



「リアンの最後の条件は必ず守りますわ」

「ああ、最後の条件だったな」


リリアーナが最後に望んだ条件は二人共叶えるつもりだった。


そしてもう一つ二人が考えていたのはリリアーナが国の為に身を差し出した勇気ある事を他国に知らしめることだった。

そうすることでリリアーナの立場は守られ、婚約破棄をされた哀れな令嬢ではなくなるように仕向けようと考えていたのだった。

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