11 / 128
第一章
10.健全なデート
しおりを挟むお腹も膨れて満足だった後は二人で仲良くデートを楽しむが。
庭園にて釣りをする二人はどう考えても若い男女の初々しいデートには見えなかった。
「ねぇ、デートなのこれ?」
「色気の欠片もありませんわ」
「ああ…世間知らずの陛下ですから致し方ありませんが」
女官三人は眩暈がした。
健全過ぎて呆れて物も言えないが、二人は楽しんでいる。
「陛下…私は塩焼きが食べたいです」
「いや、刺身にした方が美味しいよ。後は天ぷらに」
「天の名がつく料理とはどんな至高の料理でしょうか!」
心配する女官達を他所に魚を何の料理にするか相談する二人はすごく平和だった。
(食べたい…天のつく料理)
リリアーナに至っては一年後までは美味しい物が食べられるならば好きなだけ美味しい物を食べて最後はイサラに美味しく食べてもらおうと思った。
(うんうん、陛下ならいいかも)
見たところイサラは少し変わっているが優しい竜だし、人間界で噂をされる暗黒竜とは正反対のように思った。
何よりイサラから感じるオーラがとても綺麗だった。
癒しの姫と呼ばれるリリアーナは先祖から引き継いだ能力の一つに相手の魔力を見ることができる。
しかも色だけでなく心の結晶を見分ける目を持っている。
誰もが持つ心の水晶は、その人の特性を表しているのだった。
イサラの水晶は銀色で雪結晶のようにキラキラ光っていた。
だからこそ、邪心に見えなかった。
リリアーナは噂に左右されることなく、自分で見た者しか信じなかった。
だからこそ本質を見抜く目を持っている。
恐らく生贄もイサラの本位ではないのかもしれない。
肉食動物は生きる為に糧を得る為に食べなくてはならないのは仕方ない事で、竜ももしかしたらそうなのではないか?
もしくはどうしても人間を生贄にしなくてはならない理由があったのだと思う。
悪い噂ももしかしたらイサラを良く思わない者が故意的に流したのではないか?
幼いながらも社交界で噂を流され、爪はじき状態にされたからこそ解るのだ。
「何時の時代も優しい人が犠牲になるんだから…」
「
どうしたの?」
「お腹がすきました」
「そうか。じゃあお弁当にしようか」
独り言は風で消され聞こえることがなく安堵したリリアーナはイサラの手作り弁当を有難く受け取ることにした。
「ほわぁー…陛下!すごいです!すごすぎます」
「そんなに嬉しい?」
「嬉しいです。こんな豪華な具が入ったパンは初めてです」
現在お弁当には三段の重箱にローストビーフを挟んだサンドイッチにおかずは色とりどりだった。
スープも選び放題で品数が沢山あり、サラダも冷たくて鮮度が良くデザートは五段重ねて分厚い特大レモンパイだった。
「でっ…でも、こんな贅沢をして天罰がくだらないかしら?お昼にごちそうを食べたばかりなのに」
「君が食べてくれないと捨てなくちゃいけない」
「食べます!お腹が裂けても…このリリアーナ・アンシーは食べ物を粗末にしません!」
辺境地故に、食べる物は大事にするように育った。
戦争が始まれば森は焼かれ食べる物が不足する事も少なくないのだ。
宮廷貴族は贅沢をしているが、辺境地の伯爵は食べる物を粗末にしはしなかった。
政治的な理由で演出として贅沢な料理を用意しても食べずに捨てる行為はしないのだ。
「そうか…嬉しいな。さぁたーんとお食べ」
「いただきます!」
しかしここで第三者は疑問を抱く。
「お昼にあれだけ食べてどうして入るのかしら?」
「なんとかは別腹なのかしら?」
「おかしいわ。明らかに姫様の胃袋は無限収納並みだわ」
離れた場所で様子を伺っていた女官は、リリアーナの無駄に広すぎる胃袋に驚いていた。
こうして二人は交流を深めながら誤解を解かないまま夜が更けて行ったのだった。
54
お気に入りに追加
5,993
あなたにおすすめの小説
〖完結〗死にかけて前世の記憶が戻りました。側妃? 贅沢出来るなんて最高! と思っていたら、陛下が甘やかしてくるのですが?
藍川みいな
恋愛
私は死んだはずだった。
目を覚ましたら、そこは見知らぬ世界。しかも、国王陛下の側妃になっていた。
前世の記憶が戻る前は、冷遇されていたらしい。そして池に身を投げた。死にかけたことで、私は前世の記憶を思い出した。
前世では借金取りに捕まり、お金を返す為にキャバ嬢をしていた。給料は全部持っていかれ、食べ物にも困り、ガリガリに痩せ細った私は路地裏に捨てられて死んだ。そんな私が、側妃? 冷遇なんて構わない! こんな贅沢が出来るなんて幸せ過ぎるじゃない!
そう思っていたのに、いつの間にか陛下が甘やかして来るのですが?
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。
そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。
シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。
ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。
それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。
それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。
なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた――
☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆
☆全文字はだいたい14万文字になっています☆
☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
【完結】私のことを愛さないと仰ったはずなのに 〜家族に虐げれ、妹のワガママで婚約破棄をされた令嬢は、新しい婚約者に溺愛される〜
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
とある子爵家の長女であるエルミーユは、家長の父と使用人の母から生まれたことと、常人離れした記憶力を持っているせいで、幼い頃から家族に嫌われ、酷い暴言を言われたり、酷い扱いをされる生活を送っていた。
エルミーユには、十歳の時に決められた婚約者がおり、十八歳になったら家を出て嫁ぐことが決められていた。
地獄のような家を出るために、なにをされても気丈に振舞う生活を送り続け、無事に十八歳を迎える。
しかし、まだ婚約者がおらず、エルミーユだけ結婚するのが面白くないと思った、ワガママな異母妹の策略で騙されてしまった婚約者に、婚約破棄を突き付けられてしまう。
突然結婚の話が無くなり、落胆するエルミーユは、とあるパーティーで伯爵家の若き家長、ブラハルトと出会う。
社交界では彼の恐ろしい噂が流れており、彼は孤立してしまっていたが、少し話をしたエルミーユは、彼が噂のような恐ろしい人ではないと気づき、一緒にいてとても居心地が良いと感じる。
そんなブラハルトと、互いの結婚事情について話した後、互いに利益があるから、婚約しようと持ち出される。
喜んで婚約を受けるエルミーユに、ブラハルトは思わぬことを口にした。それは、エルミーユのことは愛さないというものだった。
それでも全然構わないと思い、ブラハルトとの生活が始まったが、愛さないという話だったのに、なぜか溺愛されてしまい……?
⭐︎全56話、最終話まで予約投稿済みです。小説家になろう様にも投稿しております。2/16女性HOTランキング1位ありがとうございます!⭐︎
【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。
紅月
恋愛
小説家になろうで書いていたものを加筆、訂正したリメイク版です。
「何故、私の娘が処刑されなければならないんだ」
最愛の娘が冤罪で処刑された。
時を巻き戻し、復讐を誓う家族。
娘は前と違う人生を歩み、家族は元凶へ復讐の手を伸ばすが、巻き戻す前と違う展開のため様々な事が見えてきた。
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる