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第一章
9.竜帝の事情
しおりを挟む様々な誤解が生じながらも二人は第三者から見ても仲睦まじかった。
暗黒竜と呼ばれるイサラは家庭的で、家事は全て自分でするのが癖になっていた。
それというのもイサラは元より忘れられた存在だった。
帝位継承争いをする兄達からは末っ子のイサラを散々苛めて洞窟に閉じ込めたり、イサラを邪魔に思う家臣や侍女から毒殺をされかけたこともあった。
その為食事は自分で作り、身の回りも自分でするようになった。
元から天才肌で、ある程度の事は何でも完璧にこなせるのだが、親の愛情を得ることなく育ったがゆえに対人関係が苦手だった。
唯一の味方は第一皇子だけだった。
彼は幼少の頃から一人ぼっちのイサラを庇い読み書きを教えてくれた。
忘れ去れた存在でも、大好きな兄がいる時は幸せだった。
けれどその兄も他の兄弟の策略で竜の国から追い出され、流罪になってしまった。
いずれ自分も追い出されるのだ。
ならばそれまで生きなくてはと固く誓ったのだ。
兄が守ってくれた命を大事にしよう。
そして強い者が弱い者を虐げるのではなく守るべきだと考え、優しく接しようとしたのだが…
その頃兄弟同士で骨肉の争いが繰り広げられ結果として生き残ったイサラは兄達を打ち負かしたという噂と、偶然黒幕の現場を見てしまったイサラは殺されそうになるも天井が崩れ、柱が黒幕に直撃して即死。
急いで助けるべく駆け寄るもタイミング悪く現場を見た家臣に黒幕を残虐なやり方で殺したと思われてしまった。
尾ひれがついた状態で暗黒竜の名が出来上がってしまった。
本当は誰も傷つけておらず、仲良くしたいのに不幸な出来事が多かったのだ。
それでもめげずに仲良くするべく努力するも、他の種族からは怖がられるか頭を下げられるのどちらかったが、人身御供として差だされた人間等はイサラの真の姿を見て気絶してしまう。
昔から竜に生贄を差し出す儀式があるが、あれは人間が勝手にしているのであって。
竜は人間を食べたりしないし、わりとベジタリアンだったりする。
けれど思い込みとは恐ろしい物で生贄を用意しなくてはならないと思っている人間に説明しても意味がなかったのでせめて手厚くおもてなしをして友達になってもらおうと思ったが…見た目は巨大な竜を見れば悲鳴を上げて泣いて、怯え、最後は自分から身を投げて死を選ぶこともあったのだ。
故にイサラは生贄を廃止したく思い、クリステリア帝国の守護竜でもある白竜にお祈りをした。
生贄はいらないので、こんな自分でも仲良くしてくれる人をお嫁さんに欲しいと。
種族の偏見を持たない…できれば子供が良いと。
そしたら白竜が願いを聞き入れてくれた。
人間の国にいる神の加護を持つ乙女がいる。
その者ならばきっと仲良くしてくれるだろうと白竜は答えてくれた。
しかし、人間の国から送られた少女の写真を見てすぐに燃やした。
まったく好みじゃなかった。
髪をやたらと巻いて、化粧も酷く、何より白すぎる肌は死んだ魚のようにも思えた。
――もっと健康的な子が良い!
内心では絶望した。
特にありえないと思ったのが、その少女は細すぎるのだ。
これでは自分の手料理を食べてもらえないのでは?
幼い頃から料理をしていたので、将来結婚したら自分の手料理を食べてもらい仲良くしようと思っていたが見るからにキツそうな顔つきで、幼少期に自分を苛めた侍女に似ていたのだ。
けれど、白竜の好意で叶えてくれたのだから今さら嫌だなんて言えなかった。
しかし、輿入れ当日に水晶玉で見た花嫁は別人だった。
顔は隠れていたが微かに見えたのだ。
褐色の肌に青紫の綺麗な瞳と健康的な頬にふくよかな体。
何より愛らしい顔立ちだった。
イサラは天に感謝した。
自分の好みの少女を選びなおしてくれたのだと感謝した。
この時直感したのだ。
その少女なら仲良くしてくれるかもしれないと。
まずはお友達から初めてゆっくり交流を深めて夫婦になろうと今時珍しい程健全な事を考えていたのだった。
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