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第一章

5.お引渡し

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竜の国に向かうには竜の谷にある崖にてお引渡しがされる。



「リリアーナ・アンシー嬢をお連れしました」

「ご苦労であった、これよりお引渡しを!」

双方の騎士の隊長が声を上げる。
竜騎士が馬車の傍に来て挨拶を交わしお引渡しは完了となる。


「どうかお願いいたします」

「かしこまりました」


二人の間に余計な会話はなかったのだが…


「姫ぇー!」

「お達者で!」

「うぉぉぉ!」


竜族側は沈黙を守るも、人間側は号泣していた。

最後まで泣くのを耐えるオーディンはリリアーナが乗せた馬車が消えるまで見送っていた。




そしてその本人は――。



「皆、お元気で!」

馬車から身を乗り出していた。

「姫様!なりませっ…」


癒しのハープを奏でながら、彼等の無事を祈っていた。

黄金のハープが奏でる音色により風が吹き、空から花弁が舞っていた。


「隊長…これは」

「癒しの魔力だ」


護衛を務める竜騎士達は不思議な光景に目を奪われていた。


「姫様、どうかご着席ください。これより橋を渡ります」

「へ?うわぁ!」

ガタンと馬車が動くと馬車は角度を変える。


「虹…」

「天空に行く橋でございます」

天と地を結ぶ虹が現れ、馬車はその橋を渡っていく。


「空を飛んでる」

「後に飛びますので」

「へ?」

馬車を引いていたのは馬と思いきや竜だったを持っていた。


「わぁ!竜だ…ドラゴン!」

「姫様、どうかご着席を!」

こんなに近くで竜を見れたことに興奮するリリアーナに竜騎士は思った。


「なんというポジティブな姫だ」

「ああ、人間側の騎士達は号泣していたと言うのに」

呆れるのを通り越して尊敬に値する程の前向きな姿勢に少しだけ安堵した彼等だった。


天空の国、クリステリア帝国に到着した。

「わぁー、世界樹があんなに近くに」

「世界樹は空にあるのです。我が一族が守っております」

「でも元気がないですね。聖書では世界樹は花を咲かせていると聞きますが」

「少々問題があります…姫をお迎えしたのもその為です」


詳しくは説明されていなかったが、その道教えて貰えないかもしれないと思い馬車の中で大人しくすることにした。


「姫様、あちらが宮になます」

「あれが宮殿ですか…」


人間界の宮殿よりもずっと大きく傍に世界樹に似た巨大な大樹がある。

「わぁー竜が沢山!」

「姫様、恐ろしくないのですか?」

「え?」


自然界の常識では草食動物は肉食動物を恐れる傾向にある。
魔獣なども、弱肉強食で竜族は魔族の中でも最強を誇る一族でもあるので恐れと尊敬の対象である一方で非力な種族は恐れるのだ。


「私、一度でいいから竜の背中に乗って見たかったんですよね。空飛ぶ馬車に乗れたのも夢みたい」

「そうですか…」

「何とも変わった姫だな…本当に竜王の花嫁なのだろうか?」


竜騎士は噂に聞いていた聖女とは異なっていると思ったが、竜族に対して敵意があるよりマシだと思った。


彼等は聖女の顔を知らない。
ただ命令通りに従っただけなのだが、まだ不安は拭えない。


「陛下を見てドン引きしないだろうか」

「俺は、陛下よりもあの方を見て失神しないか心配だ」

「ああ、我が守護竜様よ。どうかお願いします」


彼等は切実な問題に頭を悩ませながら、宮殿に向かった。


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