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第一章
3.リリアーナの胸中
しおりを挟む竜の国に捧げられる直前まで家族と過ごすことを許され、オーディーンに長期休暇を取らせた。
これも彼なりの配慮だった。
他にも何か望みはないかと手紙が届き、世界中の珍味やスイーツが届けられた。
「わぁー!こんなに沢山!」
「これらは東の国の果物だ」
「なんて綺麗なの」
見たことがない果物に目をか輝かせるリリアーナに乳母のシュゼットは涙を浮かべる。
「ああ、お労しい。お嬢様はまだ12歳だと言うのに…このような」
「泣くなばあや、俺だって泣きたい。後でロイドの奴はぶっ飛ばす。絶対殺してやる」
果物に見惚れるリリアーナを他所に、ルーカスとシュゼットは必ずロイドをぶっ殺すと心に誓った。
そして自分だけは安全な場で守られている聖女のサンドラにも恨みが募っていた。
「いくら何でもお詫びの手紙一つもないなんてあんまりですわ」
「ああ、せめて自ら領地に赴き謝罪ぐらいしてもしかるべきだ。陛下はこれ以上無い程謝罪の手紙と贈り物を下さった」
本人は謝罪もなく、あの場でリリアーナに死んで来いと言ったロイドもすぐにいなくなってしまった。
元より、ロイドの実家のメイデン伯爵家は多額の借金を背負い困窮していた事からアンシー辺境伯爵家との婚姻を結ぶ事になった。
アンシー辺境伯爵家は海岸沿いで北の最果てを守る一族だった。
常に領地にて外敵から国を守るのだが、その一方で宮廷貴族からは野蛮だと馬鹿にされていた。
対するメイデン伯爵家は宮廷貴族の暮らしが根付いている。
何代も続く名門貴族で、王族とは遠縁であるが親戚筋に当たるので立場が違う。
根っからの騎士の家柄であるアンシー家と名門貴族のメイデン家。
双方は真逆な考えを持っていた。
しかしながら、国への忠誠心が一番強い一族であることも王は知っていた。
だからこそこの婚約で辺境伯爵と宮廷貴族の中が良くなればと王妃が願っていたのだが、肝心の当人同士は仲が良いとは言えなかった。
むしろ、ロイドがリリアーナを毛嫌いしていた。
理由はリリアーナの見た目だった。
昔から少しぽっちゃりした体格に紫水晶の瞳と銀髪に褐色の肌が特徴的だった。
他民族の血が入っている事を嫌う貴族が多い中、特に見た目が美しくないのを毛嫌いするロイドはリリアーナを毛嫌いして社交場でも態度は酷い物だった。
しかし、ロイドがエスコートしなくてもルーカスが完璧なエスコートをするので、本人も気にした素振りはない。
罵倒を浴びせられても右から左に聞き流し、適当に相手をする程度だ。
何を言っても泣く事もしないリリアーナの態度が生意気だと言う始末だった。
リリアーナにとってロイドとの婚約は義務でしかなく、できるなら婚約したくない。
しかし、貴族の婚約は王の命令の元に行われているので断れないし、国の問題にも関わっていた。
だから泣く泣く耐えたが、最近になってロイドが領地経営に口を挟んで来たのだ。
現在兄の代わりに補佐をしている身であるが、いずれ自分の物になると言いたげな横柄な態度に流石に我慢できなくなり、何とかしなくてはと思っていた矢先の事だ。
あんな男と結婚して領地を良いように使われるぐらいなら死んだ方がマシだとも思っていた。
だから今回の事は好機かもしれない。
これで国に恩を売り、メイデン伯爵家に支払った支度金や援助金は全て返上してもらい、尚且つロイドに一矢報いれるならば万々歳だ。
公の場で婚約者を売った事は他の貴族が見ている。
その中には同じ派閥の貴族もいるのだから、ロイドの未来は明るくない。
散々馬鹿にされたのだからこの程度の仕返しは許されるだろう。
役立たずの治癒師として馬鹿にされた仕返ができて満足だったリリアーナだが、家族を悲しませたことには申し訳なく思った。
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