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第一章

2.父と兄

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聖女の身代わりとして捧げられることになったリリアーナは最後の時間を家族と過ごした。


「リリアーナ、今からでも逃げよう」

「そうだ…地の果てまで逃げるんだ。それができないなら」

「お父様、それはダメよ」


兄ルーカスは逃げる気満々だったし、父オーディンは最悪の場合死ぬ気だった。


「私は娘の命すら守れないと言うのか!」

大事に育てて来た愛娘が最後は生贄になるなど耐えられなかった。


「お父様、すぐに殺されるわけじゃないわ。それにロイドの妻になればこの領地はどうなるか解らないないわ」


アンシー領地は海が近い為、多くの魔獣が生息する。
祖先は魔獣との共存を望み、領地内には魔獣だけでなく珍獣と呼ばれる生き物も生息していたが、ロイドは彼等を道具にしか考えていなかった。


近頃では、海に生息する生き物を捕まえ売ろうとする行為まで目につくようになった。


婚約の時等は領地の一部を支度金代わりに奪われる始末だった。


「私はあの男に領地を好きにされるのだけは耐えられません。この領地はお母様との思い出が詰まった宝物です。何より生き物を大事にできない男なんて嫌です…でも相手は王族の親族。こちらから婚約を断れば社交界で良からぬ噂が流れますわ」

「ああ…何故だ。何故あの性悪男との婚約が結ばれてしまったんだ」

「そんなの、他に貰い手がないから押し付けられたんだろ?あの我儘のはなたれ小僧の貰い手がいるものか。あの自称聖女も本当に聖女か怪しいぞ」


元から望んだ婚約ではなかったのだが、成長するにつれてロイドが大嫌いになっていたリリアーナは国の為に生贄になって死ぬ方がマシではないかと思った。


「このまま結婚しても、私はお飾りで社交界の笑い者です。でも、聖女の身代わりになれば噂は変わりますよね?私はもう役立たずじゃない…国の為に尽くした令嬢となれるはずです」

「リリアーナ!私は…」

「ああ、妹が健気過ぎて悲しい」


二人はギュッとリリアーナを抱きしめた。


「先にお母様の元へ行ってます」

「リアン…パパはお前を愛しているよ。例え何があっても」

「愛しい我が妹よ。お前は自慢の妹だ…最後の時まで共に過ごそう」


久しく愛称で呼ばれ少しだけ恥ずかしくなるも嬉しく思うリリアーナは二人にお願いをした。


「パパ、お兄様。私は竜の国に行く前に美味しい物が食べたい」

「何でも言うがいい!世界中の珍味であろうとスイーツであろうと揃えよう!」

「今から狩りに行こう!最高級の猪肉を取って来てやる!」


最後は美味しい物が食べたい。


リリアーナ・アンシーは食いしん坊だった。



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