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第四章若き王と明日への架け橋
7絶望の中で~アルセウスside
しおりを挟む――嘘だ。
目の前にいるのは誰だ。
部屋から追い出された僕は耳を塞ぎたくなった。
「あれは誰だ」
乱暴な言葉に、ヒステリックに叫ぶ彼女が僕の愛したマリアンナと同一人物に思えない。
「僕は…僕は!」
マリアンナに言われた言葉が耳から離れずいた。
「アルセウス様、どうされました!」
この邸に仕えている見習いの侍女が声をかける。
「何でもない」
「ですが、顔色が悪いようで…」
もう何も考えたくない。
何も聞きたくない。
「僕はもう消えたい。死にたい」
ずっと信じていた女性を。
慕っていた、利用しようと思ったわけじゃない。
兄の婚約者を奪った事に優越感はあったが。
僕を理解してくれたマリアンナが。
美しく聡明な公爵令嬢の彼女が眩しく見えたんだ。
だけど、彼女は僕を愛していなかった。
利用する為だけに優しい言葉を――。
見下していた兄上は隣国の国王となり失態続きの僕とは大違いだ。
あの時僕は――。
兄上に勝った気でいた。
でも兄上はなんて言った?
どんな顔をしていた?
「最初から勝負になるわけがなかった」
――アルセウス。
ただ優しく僕を見て国を、マリアンナを頼むと。
怒りも憎しみもなく僕を真っすぐに見ていた。
「僕は兄上に勝てない。何もかも…ずっと負けたままだ」
もう誰もいなくなった。
母上も父上も僕を見捨て、愛する人も――。
「兄君に負ける事の何がいけないのでしょうか?」
「え?」
「私には年の離れた姉がいます…ですが勝負になった事はありません」
何が言いたいんだ。
「昔は対抗意識を持っていました。でも敵わないと思った私は母に言われました」
「何を言われたんだ」
「姉は姉、私は私…それぞれ役割があると」
「役割…」
前の僕だったら負け惜しみだと思った。
でも。
「私は姉に反抗するのではなくできる事を考えました…とは言ってもまだまだですが」
赤切れだけの手を見ながら僕は今まで考えた事がなかった。
「私は兄君と対等になるだけの能力があるアルセウス様とは月とすっぽんですけど」
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僕は今まで兄上を見下し、見ようとしなかった。
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兄上が王宮を去ってから本当の意味で僕は何も解っていなかったことを知らされた。
「君、名前を教えてくれないか」
「はい、ルリと申します」
「そうか、良い名前だな」
僕はその日から、考えることにした。
そして見習い侍女のルリと共に引きこもるのを止め外に出ることにした。
もう手遅れかもしれないけど僕の道を見つける為に。
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