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45宝石か小石か
しおりを挟む先程から伯爵夫人は黙ったままだ。
「あの…やっぱりお返しします」
「アンタ馬鹿か!目の前にある宝石を捨てる気かい」
「でも、元々はモニーク領地の物ですし」
宝石ならば私が貰うわけにはいかない。
「サーシャ様、それは貴女の物です」
「何を言ってんだい!」
「リヴィア!アンタまで何を言い出すんだい」
「お婆様、この翠玉は人を選びます」
私の手にある石を見つめる表情は柔らかかった。
「竜に愛されたサーシャ様だからこそ見つけられたのかもしれません」
「え?」
「古来より魔石は人を見ると言われています。この翠玉も同じなのかもしれませんわね」
私は生まれてこの方宝石が欲しいと思った事がない。
お母様の身に着けているアクセサリーは素敵だと思ったけど、その品は宝石じゃない。
故郷で領民が手作りをしてくれた物だ。
「なんじゃ、不満そうじゃな」
「これ、売ったら竜の鱗と交換してもらえますか」
「アンタ!話を来ていたのかい!馬鹿だろ!馬鹿にも程があるだろ」
「正直私は宝石に興味が無くて…災害が起きたらただの石でしかない」
そうだ。
今は国が安定しているけど宝石でお腹は膨れない。
宝石で人を幸福にするのか。
むしろその逆だ。
「もし貴重な宝石が辺境地で発掘されたなんて噂になったら大変ですよね」
「ぐっ…馬鹿な癖に!」
「確かに問題じゃな。それにこれ一つではな?もっと大きな功石ではあれば別じゃが」
私は政治の事は解らない。
でもこれが争いの種になるならいただけない。
「ギャウ!」
「あ、ロール」
「ロールってなんじゃ!海竜に失礼な」
「尻尾がロールパンみたいにくるんとしているから」
小さな海竜。
普段から私の傍に来てくれるから名前をつけた。
頷いてくれるから勝手にロールに命名した。
「アンタいいのかい!海竜なんだよ!こんな名前でいいのかい!」
「嫌なら噛みついてやりな!」
「ギャウ!」
「いだだだ!何で私の足を噛むんだ!私は噛まれるより噛みたいタイプなんだよ!」
「お婆様、ズレていますわよ」
「喧しい!」
ロールは再び砂かけ婆様をがぶがぶした。
結局鉱石をどうするかは決められなかったのだけど。
「ギャウ」
「結局ロールの玩具になっちゃったな」
「よろしいのでしょうか」
「いいんじゃないかしら?」
下手に天然の翠玉を拾ったなんて知られたら厄介だ。
万一にでモニーク領地に鉱山があるかもしれないなんて噂が流れたら大変だ。
この領地に鉱山があったのは大昔で今は鉱山はないと聞かされたのだから。
なのだけど…
お昼過ぎにフレディーが邸に戻って来た時に鉱石の事を話したら頭を抱えられたのだった。
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