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4婚約者
しおりを挟む高位貴族は幼少期の間に婚約を結ぶ人が多い。
例外もあるが、私は未だに婚約者がいなかったのだけど。
此度婚約を結ぶことになった。
「お初にお目にかかります。フレデリック・モニークと申します」
「サーシャ・リシュフェールです」
婚約はある日突然告げられた。
本当に前触れもなくだったが、特に反感もない。
…というか、王都の貴族では私を婚約者に望む男性はいないらしい。
「本来ならば我が領地においでいただくのは申し訳ないのですが」
「いいえ、一度竜の谷に来てみたかったんです。絶壁の谷底に行くのが…」
「サーシャ」
「お嬢様」
ついうっかり本音を零した私にお母様と傍付きの侍女春麗が咳ばらいをする。
「すいません…」
「絶壁の谷底がお好きで」
しくじった!
初めての顔合わせで話す言葉は予めカンペを作ったはずだった。
とりあえずメモメモ!
「あっ!」
「おや、何か落ちましたよ」
ああ、春麗の目が絶坊的だ。
最悪なタイミングでカンペを見られてしまった。
「顔合わせの時の会話…」
最悪の展開で終わったわ。
「おや?後ろのページに…絶壁のランキング。絶対見たい谷底リスト、秘境リスト」
「お嬢様、そのようなものを」
まずい。
こっそり小さく書いたのにバレたか!
「いやぁー…折角竜の谷に行くんだし。谷底見学に…秘境を見学にね?」
「ね?ではありませんわ」
お母様は何も言うまいとしている。
タイミングが最悪だと思っていたのだけど。
「サーシャ様は谷がお好きなのかしら」
沈黙を破られたのはモニーク伯爵夫人だった。
「聞けば領地は大自然の溢れる場所でしたわね…幼少期の環境故かしら?」
「はい!大好きです…特に私は幼いころから絶壁の谷をこの目で見るのが夢で」
「まぁ、そうでしたの?あれをここへ」
モニーク伯爵夫人は使用人に何かを耳打ちした。
程なくして持ってこられたのは絵画だった。
「こっ、これは北の絶壁!こっちは地獄谷に、もう一つは火山…なんて素敵なの!」
「随分と詳しいですね。これはかなり古く、領地内の人間でも知る者は少ないのですが」
「幼い頃に聖堂にこっそり入って見に行きました」
「お嬢様!」
そう、王都内でも一番古い聖堂には古い絵画が隠されている。
一般公開はされていないのだけど私は小さい頃にこっそり入ったのだ。
「聖堂とは…マリアンヌ聖堂ですか?」
「はい…」
「入れたのですか?」
「はい」
何故かフレデリック様は驚いた表情をされていたけど、別に簡単だった。
鍵はかかっていたけどあの程度のピッキングは簡単だった。
昔呼んだミステリー小説に書かれていた通りにしたら出来たし。
ダンスレッスンや淑女教育よりも楽勝だわ。
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