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序章
しおりを挟む王侯貴族の中でも名門中の名門のリシュフェール侯爵家。
長女は幼少期から天才と謳われ社交界の華と呼ばれる程美しい令嬢だった。
厳しい淑女教育を受け、社交界デビューする前から多くの専門知識を身に着け大人顔負けの教養と美貌で他国からの婚約話も絶えなかった。
そんな中12歳の日。
聖女の力に目覚め、国一番の聖女となる。
加護の力を持って国を守り、祈りの力で民を導いて来た。
誰もがジャネットを尊敬したが、妹のサーシャは平凡で、特に秀でた才能はなかった。
「姉君は完璧なのに」
「あんな無能だなんて」
「ジャネット様はお可哀想に」
「本当に侯爵閣下のご息女か?」
「聞けば既に諦めて、淑女教育も断念したとか」
社交界ではサーシャの悪口が飛び通う中、姉のジャネットはただ否定する事はなかった。
「妹は少々、不器用なのです」
「まぁ、お可哀想なジャネット様」
「お優しい事」
公の場で過度に庇る事はしないが噂が広まらないように諫め、尚且つ遠回しに妹を庇っていた。
「社交界にも顔を出さないなんて」
「何処までも姉君の顔に泥を塗ればいいのかしら」
「むしろ侯爵閣下が禁じたのではなくて?」
サーシャは社交界に滅多に出ない事から様々な憶測を生んだ。
そんな折、ジャネットは王太子殿下と婚約が決まった事からますますサーシャが社交界に出る機会は無くなる中、伯爵家の子息と婚約が決められた。
通常公爵令嬢であるならば同じ爵位の家か、もしくは王族に嫁ぐのが望ましいのにもかかわらず相手は竜騎士の家柄だった。
辺境地に住まう伯爵家に嫁ぐなど前代未聞だった。
父親は出来損ないの妹を辺境地に隠し、縁を切ろうとしているのだと思い込んだのだった。
これが第三者の憶測だった。
しかし信憑性は高いという事もあり、侯爵家の出来損ないの次女はこのまま辺境地に追いやられることになったと面白可笑しく騒いでいたのだ。
しかし事実は小説よりも奇なり。
必ずしも彼等の信じている事が真実とは限らない。
他所の家庭の事は他人には解らないのだ。
仲睦まじい家族が実は冷めきっていることがあるように、冷たく見えて実は強い絆で結ばれている家族も。
社交界で冷遇されている令嬢は他人が思う程噂に傷ついていない等。
真実を知るのは本人だけ。
噂に踊らされていては解らないのだった。
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