ある公爵令嬢の生涯

ユウ

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最終章運命の先

16.真っ白な心

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誰でも最初は純粋だった。
環境の違いや、周りにいる人間によって純粋だった心が歪められてしまい、邪心が悪魔を引き寄せてしまいヘレンのよう悪の心が芽生えてしまった。


ただ、人は誰もが善の心と悪の心の二つを持っている。
光と闇が常に魂の中で混ざり合いながらも、衝突し合っているようなものだった。


「善の心と悪の心、バランスが崩れればとんでもないことになるだろうな…俺もそうだった」

「兄上…」

「俺は生まれた時から全てを持っているエドが妬ましかった。憎くて憎くて仕方なかったんだ。どんなに努力しても理不尽な現実を突きつけられ、最終は邪魔者扱いだ」


ずっと胸に秘めていた心の内を明かすクロードにエドワードは何も言えなかった。
時が戻る前に自分ならばいざ知らず、今ならばどれだけクロードが苦しんでいたか理解できる。

「だが、俺だけが苦しいんじゃない。昔の俺は馬鹿だったんだ。誰もが苦しみを、孤独を抱えて生きているんだ。悩みの無い人間もいなければ、闇を持っていない人間もいない…俺はお前に出会って知った」

「私?」

「ああ、お前はあれだけ酷い仕打ちを受けながらも、耐えていた。正直イラっとしたこともあった」

初めてエステルを見た時、感じたのは苛立ちだった。
正当な後継者でありながら、表に出ずにいるのが妬ましく感じた。

クロードとは違い、正当な後継者でありながらも妹に遠慮する態度が理解できなかったが。


「お前は弱いと思ったが逆だった…お前は強かった」

「私は!」

「エステル様は強い方でした」

「僕もそうおもいます」

「ええ、鋼鉄並みの精神を持っていると感じましたよ。なんせ、大勢の貴族からの嫌がらせを鼻で笑っていましたし」


最期にジークフリートが含みある言い方をされて褒められる所か貶されている気がする。


「それだけお前が強かったってことだろ…お前はとにかくやることなすこと無茶苦茶だった。だがこれだけは言える」


ユランがエステルをじっと見つめ力強く告げる。


「俺達にとってお前は聖女だった」

「ユラン…」

「俺達を集めたのはお前だ。お前の強さがここまで俺達を導いた。これは運命じゃない。お前が結んだ絆なんだ」


ユランの言葉が胸に染みる。
ずっと運命という名の鳥籠にいたエステルは何時の間にか鳥籠から出ていた。


知らず知らず結んだ絆はエステルが自分で結んだのだから。


「お前はもう同じ運命に翻弄されたりしねぇよ。俺達がいる…ここまで規格外の俺達がいてできないことがあるか?」

「ないわ」

「なら、お前の手で運命を変えろ」


決められた運命ではなく自分の手でつかむ運命。

例え聖女としての力があっても、聖女ではない。

エステルは一人の人間だった。


だからもう、運命にも縛られることはないと強く、強く願った時だった。



「なっ…なんだ!」

「兄上!」

クロードが持っている聖剣が再び強い光を放った。


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