ある公爵令嬢の生涯

ユウ

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第九章辺境の聖女

10.行方不明のヘレン

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その日の内にエステルはアリアナを調べることにした。
元より生徒の情報は生徒会で関してしたので簡単に調べることはできたが、不可解な点があまりにも多かった。


アルカディアに限らず他国でも、貴族が養女に迎えるには色々条件がつく。
例えば身分が低い者が高位貴族の養女になるには段階が必要だった。


貴族の末席の令嬢などが王の妃になる手段としては、侯爵家以上の家に養女に迎えられるのが望ましいが、直ぐに侯爵家に迎えられることはない。

その理由は、様々な不正を防いだり、他国の令嬢を養女に向かえスパイ工作を阻止する為などもある。

アリアナは貴族ではなく元は平民だった。
そこに辺境伯爵が養女に向かえたのはまだいいが、その期間の短さだった。

養女に迎えられ半年も満たないのではどうにもおかしい。
どんなに短くとも一年の調査機関を設けられてしかるべきなのにだ。


「養女になる前の経歴が少なすぎる…伯爵家と関係性がある可能性も少ないわ」

アリアナの情報があまりにも少なく経歴にかんしてもあまりにも適当に書かれている。

いくら辺境の地の孤児院出身であっても、詳細が少なすぎる。


「それに、どうにも彼女の雰囲気が異質過ぎる…」

いかに世間知らずであっても、アリスに呈して攻撃的な態度を取れば自分の立場が悪くなると解っていない。
むしろ自分は人として正しいことをしているのだと言っているかのようだった。


「エステル」

「ユラン、待っていたわ」


生徒会室に呼ばれたユランは周りを気にしながら窓から現れる。


「様子はどうでしたの?」

「どうにもこにもないぜ…魔法科では噂になっている」

先程の騒動で学園中、特に魔法科では茶番劇が繰り返されていた。

その茶番劇とは、生徒会長が転入生を苛めているという噂だった。


「あら、随分な言われようです事」

「お前、ワザとだろ」

「あら、そんなことないわ」

不敵に微笑むエステルにユランは胃が痛くなる。
公衆の面前で、アリアナにキツイ物言いをすればどうなるかなんて解らないはずはない。

にもかかわらずエステルはアリアナに接触し、厳しい言葉を浴びせた。

「魔法科での騒動を放置すれば、生徒会長の沽券に関わる…とはいえ騒ぎになれば私の立場が危ぶまれるけど」

どちらを取ってもエステルの立場が悪くなるのは明白なるのは確実だった。

ならば、己の信念を貫きたいと思った。


「彼女はあまりにも異端です。それにあの魔力…似ているんです」

「似ている?」

「はい、ヘレンに…」

言いづらそうに言葉を言い放つとユランは目を見開く。


「待てよ、どう考えても無理あるだろ?」

「ええ、ですが、彼女の魔力はヘレンにとても似ていて…無関係ならいいですが」


ヘレンはジュリエッタやラウルと一緒に追放になり辺境の地に幽閉されているので簡単に領地をでることもできなければ、国境を超えるだけの金銭はないはずだ。


そう思っていたが‥‥


「王都から手紙だ」

「え?」

「王妃殿下からだな」

学園に戻っても扱き使われるのかと思ってため息が尽きないユランは手紙の中を確認したのだが…


「なっ…馬鹿な!」

手紙を握りつぶすユランは焦っていた。


「どうしましたユラン」


「あの女が領地から姿を消した」

「は?」


ユランの言葉に耳を疑った。


「ラサール領地の騎士が数名殺され遺体で見つかった…ヘレンの姿が行方不明になっているらしい」

「なんですって!」

「ジュリエッタとラウルの生存は確認されているが、ヘレンだけ見つかっていない」


悪いことが重なり、エステルは嫌な予感が的中した。


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