286 / 408
第八話父と娘、愛の死闘
閑話1.目覚めの前
しおりを挟むエステルが眠っている間のこと。
とある一室で落ち込む男は体にキノコでも生やしているかのようだった。
「おい、いい加減にしろ」
「エステル…」
天下の近衛騎士団を求める団長の姿としてはあまりにも情けない姿だった。
「私の所為で…エステルを」
「いい加減に私の執務室から出ていけ!」
やりならば教会に出も言って懺悔すればいいのに、何故かカミュの執務室で落ち込んでいた。
カミュからすればこれ以上ない程迷惑極まりなかったのだ。
「そんなに落ち込むなら決闘なんてしなければよかっただろう」
「くっ!」
「何がくっ…だ!」
自分が言いたい所だ。
カミュはかれこれ三時間は落ち込んでいるロバートをウザがっていても無理矢理追い出す真似はできなかった。
それこそ近衛騎士団の恥だったからだ。
「エステル嬢はまだ目覚めないようだな」
「ああ…精神的なことが原因らしい」
「それは、余計心配だな」
報告書では傷事態は塞がり回復しているので、直ぐに目覚めてもいいはずだと聞かされている。
光魔法を持つ、アリスは治癒師としての腕前も申し分なかった。
ただ、傷を癒しても精神的なものまで癒すことはできない。
エステル自身が目覚めるのを拒んでいるか、もしくは別の理由と考えていた。
「私はエステルを傷つけるつもりはなかったんだ」
「だが、手加減できなかったんだろう」
「ああ」
決闘を見ていたカミュも後半から察していた。
エステルがロバートに叫んだ言葉の意味を、その言葉に隠された真意を。
「彼女は王家の最後の剣となるかもしれないな」
「私は望んでなかった」
「だから手加減をできなかったんだろう」
すべてお見通しだったカミュに返す言葉もない。
「お前は優秀なくせに、頭が固いんだ」
「ぐっ…」
「大体貴族派が我等王族派を目の敵にするのは今に始まった事じゃない。王宮に出入りする貴族をすべて抑え込むこと自体不可能なんだ」
「解っている…解っているが!」
カミュはロバート以上に王宮の事情に詳しく、派閥争いにも詳しかったからこそエステルの取った行動はあながち間違いでもなかったと思った。
ただ、やり方が少々乱暴すぎたと思っているが。
「ロバート、エステル嬢が目覚めたらちゃんと謝れよ」
「ああ…」
落ち込むロバートに苦笑しながらも背を押すカミュは不器用な親友を手のかかる弟のように思っていた。
「しかし、今回の騒動は無駄ではなかったな」
「ああ、貴族派が本格的に動きを見せたようだ」
「エステル嬢が体を張ってくれたおかげだ…バルトーク公爵が動きを見せた」
今回の騒ぎでずっと監視をしていたカミュは、このチャンスを逃すまいとしていた。
「陛下にも既に報告をしている…まだ公爵は仕掛けてくるはずだ」
「エステルに危険が及ぶと…」
「言うまでもないだろう」
ロバートが最も危惧していたことだったが今言っても仕方ない。
「今はエステル嬢が無事目覚めることを祈るんだ。後の事は任せろ」
ただ眠り続けるエステルが目覚めるのを待つ夜を過ごす。
そしてその翌日エステルが目を覚まし報告を受けた後、さらなる騒動が起きることになるのだった。
64
お気に入りに追加
16,488
あなたにおすすめの小説

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

【完結】私を忘れてしまった貴方に、憎まれています
高瀬船
恋愛
夜会会場で突然意識を失うように倒れてしまった自分の旦那であるアーヴィング様を急いで邸へ連れて戻った。
そうして、医者の診察が終わり、体に異常は無い、と言われて安心したのも束の間。
最愛の旦那様は、目が覚めると綺麗さっぱりと私の事を忘れてしまっており、私と結婚した事も、お互い愛を育んだ事を忘れ。
何故か、私を憎しみの籠った瞳で見つめるのです。
優しかったアーヴィング様が、突然見知らぬ男性になってしまったかのようで、冷たくあしらわれ、憎まれ、私の心は日が経つにつれて疲弊して行く一方となってしまったのです。

初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。
豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」
「はあ?」
初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた?
脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ?
なろう様でも公開中です。

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。
三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*
公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。
どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。
※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。
※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。
【完結】身勝手な旦那様と離縁したら、異国で我が子と幸せになれました
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
腹を痛めて産んだ子を蔑ろにする身勝手な旦那様、離縁してくださいませ!
完璧な人生だと思っていた。優しい夫、大切にしてくれる義父母……待望の跡取り息子を産んだ私は、彼らの仕打ちに打ちのめされた。腹を痛めて産んだ我が子を取り戻すため、バレンティナは離縁を選ぶ。復讐する気のなかった彼女だが、新しく出会った隣国貴族に一目惚れで口説かれる。身勝手な元婚家は、嘘がバレて自業自得で没落していった。
崩壊する幸せ⇒異国での出会い⇒ハッピーエンド
元婚家の自業自得ざまぁ有りです。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/10/07……アルファポリス、女性向けHOT4位
2022/10/05……カクヨム、恋愛週間13位
2022/10/04……小説家になろう、恋愛日間63位
2022/09/30……エブリスタ、トレンド恋愛19位
2022/09/28……連載開始

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

【完結】婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる