ある公爵令嬢の生涯

ユウ

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第八話父と娘、愛の死闘

閑話1.目覚めの前

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エステルが眠っている間のこと。
とある一室で落ち込む男は体にキノコでも生やしているかのようだった。

「おい、いい加減にしろ」

「エステル…」


天下の近衛騎士団を求める団長の姿としてはあまりにも情けない姿だった。


「私の所為で…エステルを」

「いい加減に私の執務室から出ていけ!」

やりならば教会に出も言って懺悔すればいいのに、何故かカミュの執務室で落ち込んでいた。
カミュからすればこれ以上ない程迷惑極まりなかったのだ。


「そんなに落ち込むなら決闘デュエルなんてしなければよかっただろう」

「くっ!」

「何がくっ…だ!」


自分が言いたい所だ。
カミュはかれこれ三時間は落ち込んでいるロバートをウザがっていても無理矢理追い出す真似はできなかった。


それこそ近衛騎士団の恥だったからだ。

「エステル嬢はまだ目覚めないようだな」

「ああ…精神的なことが原因らしい」

「それは、余計心配だな」

報告書では傷事態は塞がり回復しているので、直ぐに目覚めてもいいはずだと聞かされている。

光魔法を持つ、アリスは治癒師としての腕前も申し分なかった。
ただ、傷を癒しても精神的なものまで癒すことはできない。


エステル自身が目覚めるのを拒んでいるか、もしくは別の理由と考えていた。


「私はエステルを傷つけるつもりはなかったんだ」

「だが、手加減できなかったんだろう」

「ああ」

決闘を見ていたカミュも後半から察していた。
エステルがロバートに叫んだ言葉の意味を、その言葉に隠された真意を。

「彼女は王家の最後の剣となるかもしれないな」

「私は望んでなかった」

「だから手加減をできなかったんだろう」


すべてお見通しだったカミュに返す言葉もない。

「お前は優秀なくせに、頭が固いんだ」

「ぐっ…」

「大体貴族派が我等王族派を目の敵にするのは今に始まった事じゃない。王宮に出入りする貴族をすべて抑え込むこと自体不可能なんだ」

「解っている…解っているが!」

カミュはロバート以上に王宮の事情に詳しく、派閥争いにも詳しかったからこそエステルの取った行動はあながち間違いでもなかったと思った。


ただ、やり方が少々乱暴すぎたと思っているが。


「ロバート、エステル嬢が目覚めたらちゃんと謝れよ」

「ああ…」

落ち込むロバートに苦笑しながらも背を押すカミュは不器用な親友を手のかかる弟のように思っていた。


「しかし、今回の騒動は無駄ではなかったな」

「ああ、貴族派が本格的に動きを見せたようだ」

「エステル嬢が体を張ってくれたおかげだ…バルトーク公爵が動きを見せた」


今回の騒ぎでずっと監視をしていたカミュは、このチャンスを逃すまいとしていた。

「陛下にも既に報告をしている…まだ公爵は仕掛けてくるはずだ」

「エステルに危険が及ぶと…」

「言うまでもないだろう」

ロバートが最も危惧していたことだったが今言っても仕方ない。

「今はエステル嬢が無事目覚めることを祈るんだ。後の事は任せろ」

ただ眠り続けるエステルが目覚めるのを待つ夜を過ごす。


そしてその翌日エステルが目を覚まし報告を受けた後、さらなる騒動が起きることになるのだった。

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