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第八話父と娘、愛の死闘
33.しばしの別れ
しおりを挟む翌日、学園に戻ることになった。
エステルは制服に着替え、家族に見送られる形で船に乗る準備をした。
「もう行ってしまうのね」
「三か月後に戻って参ります」
「ええ、体に気をつけてね」
母と娘が抱きしめ合い、別れを惜しむ。
三か月後は卒業して、また王都に戻って来るので僅かな時間を我慢するだけだった。
「エステル」
「お父様」
「三か月後、君が正式な騎士となる日を楽しみにしている」
「はい!」
卒業試験が終わったと同時に、正式な騎士として迎えられる。
「ううっ…しかし!」
だが、もう一つ同時に行われるものがある。
ロバートにとっておめでたいお祝いとこの世の終わりの行事だった。
「ロバート、お前も諦めが悪いぞ」
「父上」
「婚約式を終えておるのじゃ。お前が駄々をこねてもエステルの結婚話は消えぬわ」
ロバートにとって嬉しくないこととは、三か月後にエステルがクロードの妃となることだった。
実際はクロードがアルスター家に入るのだが。
王族の親族になることは変わらないので色々立場が変わる。
「これでもまだいい方だろう?」
「王妃殿下が、色々考慮してくださったのですから」
本来ならば王宮に入るのだが、エステルは公爵家を継ぐ跡継ぎなので無理に王室に入らなくてもいいと許可を貰った。
王宮の敷地内に離宮を設ける許可ももらい。
色々優遇されているのだから、文句のつけようもないのだが。
未だにごねているロバートは悪あがきをしており、親の目からしても見っともないと思っていた。
「貴方、しつこいですわよ」
「ヴィオラまで!」
ロバートの味方は誰もいなかった。
「さぁ貴方、こちらに」
「ちょっと待ってくれ!まだ別れの挨拶が!」
「最後は婚約者に譲って差し上げなさい」
ずるずると引っ張られるロバートはそのまま連行されていく。
「うわぁー…強いな」
「はい」
ロバートを片手で引っ張るヴィオラはかつて病弱で幸が薄いとされ、儚げだったのにその影は一切ない。
(お母様がお祖母様にみえるわ)
血は繋がっていないのに実の親子であるロバートよりもずっと似て来ている。
「エステル」
「はい」
二人のやり取りを放置したクロードはエステルに別れの挨拶を告げる。
「三か月後、待っている」
「はい」
「必ず、首席で卒業しろ…学園に戻れば俺は傍に入れないが…」
クロードとの婚約は王都に限らず地方にも広がっている。
学園に戻れば噂になっているだろうし、正式にロバートが公爵の爵位を得たとなればエステルの立場は代わり、嫉妬ややっかみの視線は避けられない。
「だが、お前なら大丈夫だと思っております」
「はい、万一の時はこれでブスッと」
腰にある剣を見せるエステルにクロードは眉間に皺を寄せる。
「冗談に聞こえないぜ」
「いやですわ。クロード様ったら」
冗談を言うも、エステルならば本当にやりかねない。
普段大人しい人間ほど、一度切れると手が付けられないということを目の当たりにしたのだから。
「私も学びましたわ。武力よりも時には脅迫なども必要なのだと…もう少し冷静に相手を潰すことを考え…」
「しなくていい!!」
かなり悪い影響を受けていた。
リズベットとローニャの悪い影響が受け過ぎていた。
「お前は今のままでいい!」
「はぁ…」
今生の別れではないが、三か月間離れ離れになるのはさみしいもので、クロードはもう少し恋人の別れを惜しんで欲しいモノだったのでため息をつく。
「三か月後、俺の元に戻って来るの待っている」
「はい、必ず戻って来て皆様をおまり致します」
「ドヤ顔で言うなよ」
甘い雰囲気は一切なく、まるで男女の関係が逆転しているかのようだ。
「本当に色気がないわね」
「どっちかというと逆だろ」
ミシェルとユランは二人のやり取りを見て、まるで恋人を戦地に送り出す女性のようだと思う。
「本当に逆転よね」
「まぁ、今更だが」
なんだか居た堪れない気分になりながらも、船が出発する合図の笛が鳴り響く。
「時間だな」
「はい」
「くれぐれも無理をするなよ」
各々が船に乗り、別れを告げる。
「クロード様!私は必ず戻って参りますので…どうか待っていてくださいませ!」
船に乗ったエステルが声を上げる。
「ああ!待っている!」
汽笛の音が鳴り響き船は出航したのだった。
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