ある公爵令嬢の生涯

ユウ

文字の大きさ
上 下
274 / 408
第八話父と娘、愛の死闘

23.夢から覚めて

しおりを挟む



頬に当たる光が眩しく、ゆっくりと目を開く。

「エステル!」

目を開ける傍にはエドワードがいた。


「エド様…」

「良かった、目が覚めたんだね」

どうしてエドワードがいるのかと驚く。

「クロード様?」

傍では眠っているクロード。

「兄上はずっと君につきっきりだったから」

「申し訳ありませ…」

すぐに起き上がり頭を下げようとするも体に力が入らなかった。

「無理をしないほうがいい…傷は塞がっても体は自由に動かないだろう」

「ご無礼を…」

「いいから」

エドワードはエステルを支える。
ふと、エドワードの胸元から見えるのはペンダントにしている鍵だった。


(これは…)

黄金の鍵で太陽がモチーフにされている。


「顔色はいいみたいだね」

「はい」

「本当に心配したよ…君は無茶をするから」

少し怒った表情のエドワード。
本当にエステルを心配しているようにも見えるが、以前のエドワードは本当に穏やかな性格で感情をあまり表に出さなかった。


「君と兄上の婚約は女神様の元でなされた」

「え?」

「あの後、王家のカリオンが鳴ったんだ」

「カリオンが!」

王家に伝わるカリオン。
それはお告げや信託と同じで女神からのお告げだった。


「カリオンが祝福した以上、反対できないだろう」

「はい…ですが」

貴族派はそれでもあることないことを言ってくる。
今回の一件でエステルとクロードの仲は公にすることはでき、尚且つ正式な決闘に置いてエステルは勝者となった。

エステルの願いはクロードと正式に結婚することだったので、ある程度の野次馬を抑え込むことはできるが、高位貴族を簡単に認めるとは思えない。


「例え君達が夫婦になっても兄上に側室を進めて来るだろう…だが、そうならないように先に手を打たせてほしい」

「どうされるのです?」

「皇女を迎える前に君達には結婚してもらう」

「はい?」

アントワネットとの結婚式までにとなれば、時間があまりにも少なすぎる。
どの国も王族の結婚式は準備期間に一年以上を有するのが当然だったのだが、これは異例中の異例ではないかと驚く。

「言い方は悪いが、今回の事で焦っている貴族派は多いだろうからな」

「ですが…」

「外野の声は僕が抑え込む」

副音声が聞こえた気がする。
抑え込むとは言っても穏便に事を運ぶのではなく脅迫して何が何でも納得させるつもりだろう。


「君が決闘をしてくれたおかげ王宮はからっぽになってね…素敵な掘り出し物を手に入れたんだ」

懐から見せたのはリストだった。

「これは?」

貴族派ハイエナ達の横流しした証拠」

「は?」

あの騒ぎに乗じてそんな真似をするなんて、普段のエドワードならばありえない。
王宮内にある貴族派達の部屋を家探しするなんて下手をすれば罪に問われる可能性があるというのに。

例え部屋の主が留守でも侍女が提起しているはずだ。


「まさか…」

「内容は秘密だよ」

何時の間にこんなに真っ黒になったのか。
少なくとも逆行前のエドワードは優しすぎる性格が災いしていた程だ。

現在も王太子として駆け引きはできなくとも優秀な程度だった。
他人を踏みつけ賢く立ち回る程の能力はなかったと思ったが、どうにも違和感を感じる。

(エドワード様はこんな方だったかしら?)

幼少期に会った時も感じたことがある。

エドワードは幼少期時代は内向的で人と話すのも苦手だったが、サロンで会った当初も社交的だった気がする。


「うっ…」

「兄上、風邪を引きますよ」

「エド?何でお前がいるんだ…エステル!目覚めたのか!」

思案するエステルはクロードの目覚めによりそれ以上考えることができなくなった。


「中々目覚めないから心配したぞ!」

「申し訳ございません」

「兄上、病み上がりの女性にはもっと気を使ってください」

エドワードがクロードを窘めると機嫌が悪くなる。

「何でお前がいるんだ」

「医師を手配したのは私です。それに兄上が万一に出も彼女を襲った時の為に待機しておりました」

「おまっ…!!」

いくらなんでもそこまで言うかと、怒りを覚える。
エステルを支えているエドワードが気に入らず、睨む。


「余裕がありませんね。そんなのではに捨てられますよ」

「「は?」」

「何を呆けているのです。二人はめでたく婚約を結ばれたのですから‥結婚したら僕の義姉上になるのですから」


言っていることは間違いではないが改めて言われると恥ずかしくなる。

「エド…」

「気持ち悪いですよ兄上」

「お前は俺を何だと思っているんだ!」

余りにも酷い言い草に泣きたくなるクロードだったが、エドワードは焼けに塩対応なのにさらに疑問を抱くのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私を忘れてしまった貴方に、憎まれています

高瀬船
恋愛
夜会会場で突然意識を失うように倒れてしまった自分の旦那であるアーヴィング様を急いで邸へ連れて戻った。 そうして、医者の診察が終わり、体に異常は無い、と言われて安心したのも束の間。 最愛の旦那様は、目が覚めると綺麗さっぱりと私の事を忘れてしまっており、私と結婚した事も、お互い愛を育んだ事を忘れ。 何故か、私を憎しみの籠った瞳で見つめるのです。 優しかったアーヴィング様が、突然見知らぬ男性になってしまったかのようで、冷たくあしらわれ、憎まれ、私の心は日が経つにつれて疲弊して行く一方となってしまったのです。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

愛されない私は本当に愛してくれた人達の為に生きる事を決めましたので、もう遅いです!

ユウ
恋愛
侯爵令嬢のシェリラは王子の婚約者として常に厳しい教育を受けていた。 五歳の頃から厳しい淑女教育を受け、少しでもできなければ罵倒を浴びせられていたが、すぐ下の妹は母親に甘やかされ少しでも妹の機嫌をそこなわせれば母親から責められ使用人にも冷たくされていた。 優秀でなくては。 完璧ではなくてはと自分に厳しくするあまり完璧すぎて氷の令嬢と言われ。 望まれた通りに振舞えば婚約者に距離を置かれ、不名誉な噂の為婚約者から外され王都から追放の後に修道女に向かう途中事故で亡くなるはず…だったが。 気がつくと婚約する前に逆行していた。 愛してくれない婚約者、罵倒を浴びせる母に期待をするのを辞めたシェリアは本当に愛してくれた人の為に戦う事を誓うのだった。

処理中です...