ある公爵令嬢の生涯

ユウ

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第八話父と娘、愛の死闘

19.得たもの

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競技場のど真ん中で大胆過ぎる行動を取ったクロードに女性達は悲鳴を上げる。

一部では冷遇されながらもクロードは侍女から人気があるので、嘆きの声が響き渡る。


「きゃあああ!!」

「「クロード様ぁぁ!」」

密かにクロードに想いを寄せる女性は少なくないのだ。
何に対しても本気にならずそつなくこなしながらクールなクロードが情熱的な行動を出たことは衝撃的だった。



「おい、アイツ馬鹿だろ」

冷めた目で周りを見るユランは呆れていた。
こんな公の場であんな大胆ともいえる行動をしては、隠す気はまったくないだろう。

「隠す気ないだろ」

「ないわね」

「ないですね」

「ないとね」

「なんと破廉恥な」


一同は、うんうんと頷くも、担架で運びこまれるエステルを心配していた。


「とにかく私達もエステルの元に行くわよ」

「傷が残ったらやべぇからな」

宮廷魔導士は優秀であるが、あそこまで傷を癒すのは高位魔導士でなくては無理だった。

幸いにもアリスは癒しの魔力、光魔法を使える唯一の存在だった。


そのアリスはというと…

「あのクソ殿下!なんてことを!」

「アリス落ち着いて!!」

嫉妬の炎で燃えるアリス。
公衆の面前でキスをするなんて非常識にも限度があると怒っていた。


「私のエステル様が!」


「「「何時から貴方のになったの!」」」

聞き捨てならない言葉に突っ込むエステル親衛隊。


「とっ…とにかく、エステル様の元に行きましょう」

唯一、ローニャだけが冷静だった。
重傷を負っているエステルを救うにはアリスの光魔法が必要不可欠だった。




***


その頃、エステルは治療室に運び込まれていたのた。


‥‥のだが。


「さぁ、馬鹿息子。最後に言い残すことはありますか?」

背後に死神が見える。
杖を持っているだけなのに、死神の鎖鎌に見えてしまう。

「おい、お前…」

「貴方は黙っていてください!」

「はぃぃぃ!!申し訳ありません!」

床に眉を擦りあげるまで土下座をしていた。


「ねぇ、何なのこれ」

「俺が知るか!」


ミシェル達は、あの後急いで治療室に向かったのだが、待合室にてロバートはボロボロだった。


「娘に対してあそこまでズタズタにするとは…なんて酷い親なのかしら」

関節を鳴らしながら、ロバートの胸ぐらを掴む。

「ある程度の体罰は致し方ないでしょうが、限度というものを考えなさい」

「ぶっ!」

胸倉を掴みそのまま放り投げ壁に叩きつけられ壁にめり込む。



(((アンタに言われたないだろ!)))

この場にいる全員が思ったことだった。
ガブリエルの方がずっと過激で容赦がなかったのだが、ここで文句を言えるような人間はいるはずがない。


「あげく、貴族派に畏れて騎士道を放棄するとは…なんと愚かで軟弱ですの?もう一度私が直々に鍛えて差し上げた方がいいようですね」

「はい…」

「今すぐその腑抜けの顔を握りつぶしてあげたいわ」

「ガブリエル!やめろ!」

本当にロバートが殺されてしまうと思い、なけなしの勇気を奮った。


「貴方?」

「はい、すいませんでしたぁぁぁぁ!」

無言の威圧感に怯え、ジェームズの勇気は三秒で消えてしまった。



「王宮を管理など不可能。人の悪意は常にるのです」

「はい…」

「剣や槍で戦うは、男の役目。女は家を守る為内側で戦うのです」


夫がいない間、家を守り夫の帰る家を守る為に常に戦い続けている妻達は常に悪意と戦って来たのだから。


「ヴィオラとて同じです。そんなことも忘れ、なんと馬鹿なことを!」

「申し訳ありません…」

エステルのことを案じるあまりにロバートは大事な事を見落としていた。


「ですが、無駄ではありませんでしたわ」

「どういうことです?」

ミシェルは何故こんなことを言うのか解らなかった。
エステルが傷ついて良かったと言うのかと思ったのだが‥‥


「私はエステルの覚悟を改めて知ることができました」

「お義母様…」

「エステルは貴方よりもずっと覚悟を決めていました」

この先待っているものがどれだけ過酷か解っていて尚且つ宣言したのだから。


「あの子はこの先、貴族として、騎士として…妻として覚悟を決めたのです」


ガブリエルはずっと危惧していた。
幼少期に受けた心の傷が尾を引いていることを心配していた。


「あの子は自分の為に生きようとしませんでした」

「それは…」

「ですが、あの子は何時からか…変わりました」

外の世界を知り、信頼できる友人ができた。
心から愛する人に出会い、本当の意味で守ることの難しさを知ったエステルは自らが犠牲にしても守りたいものができた。

そして時として他者を踏みつけてでも。


己の手を汚さなくては守れないものがあると知ったのだった。
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