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第八話父と娘、愛の死闘
14.応援隊
しおりを挟む好奇の視線に晒される中、エステルは胸を張り決闘競技場に向かった。
「親子で決闘なんて初めてじゃねぇか?」
「けど勝負は決まっているな、俺はアルスター侯爵に賭けるぜ」
「俺もだ」
観客席では賭けをする貴族や官僚までいる始末だった。
「じゃあ私はアスルター嬢に金貨10枚かけわ」
「僕は金貨20枚です」
そこにドンっと、金貨を出す人物が二人。
「は?おいおい、馬鹿だろ?」
「親の七光りで騎士になったお嬢さんが勝てるわけないだろ?どうせこの試合も出来レースなんだしさ」
下世話なことを言い、この決闘事態を暇つぶしの余興にしか思っていない男達の頭に袋が落とされる。
「金貨50枚だ!!」
「ぶっ!」
「てめぇ、何しやがる!」
頭に落ちて来た袋はずっしりしており重かったので顔に痣ができる。
「この俺を打ち負かしたあの女が、簡単に負けるか…成り上がりは生まれだけでなく知性の欠片もないようだな」
「なっ…馬当番の見習いの癖に」
「ぬかせ、庶民が…俺は貴族だ。席を譲れ」
偉そうにふんぞり返ったのはヒューバートだった。
「アンタ、たまにはいいこと言うじゃない。ほらどかないと演奏わよ?」
「僕は折りますよ?」
ミシェルはフルートを取り出し、そのまま殺す気満々だった。
ルークは愛剣を取り出し今にも刺し殺す勢いだった。
「「「すいませんでしたぁぁぁ!!」」」
情けない声をあげる男達は即座に席を譲り去って行く。
ミシェルの演奏は人を殺めるよりもえげつなく、有名だったのだ。
「フンッ、根性がないわね」
「あんな輩にエステルさんを侮辱されるなんて許せません」
二人は一番いい席を確保し、何故かタスキを身に着けている。
「これで応援するわよ…最悪援護射撃してやるわ」
「はい、僕も援護します」
フルートで幻影殺を企てるミシェルと吹き矢を用意するルーク。
「お前ら、なにやってんの!!」
「何よユラン」
「手を出したら反則!しかも何でルークはそんな大昔の武器を持ってんだよ」
今時吹き矢など使う人間見たことがなかった。
「先日、市場で購入しました。役に立つ日が来るとは思いませんでしたが」
「マジやめろよ…つーか当初の大人しさは何処に行ったんだよ!」
学園で大人しく自信なさげにしていたルークは影もない。
「馬鹿ね、人間ってのは成長するのよ」
「成長の仕方が間違ってるだろ…おかしな方向に向かっているだろ!」
いい方に成長するならまだしも、危険な世界に足を踏み入れ、ある意味でルークは逞しく成長している。
「いい意味でも悪い意味でもエステルの影響を受けているわね」
「悪い方にしかねぇだろ!」
「男がギャーギャーうるさいとよ」
「ふご!」
いきなり頭を掴まれるユランは声にならない悲鳴をあげた。
「いでででっ!!」
「少しは静かにできないのですか」
眼鏡を光らせながら偉そうに言うジークフリート。
「お前等なんて恰好をしてんだよ!」
二人はお揃いのたすきに羽織を着ている。
この場に相応しくない装いで布にはエールが描かれている。
「何って応援の為に徹夜で作ったのですが」
「よかよ?」
「良くねぇわ!!」
お揃いの羽織とタスキにポンポンも用意している二人は色んな意味でずれて居た。
ただエステルを応援したい気持ちは伝わって来たのだが、一人いないことに気づく。
「ちょっと、アリスがいないわよ」
「ああ、何処に…っていたぞ」
離れた場所で大太鼓を叩いているアリスがいた。
「必勝!エステル様ぁぁぁ!」
ドンドンと大太鼓を叩いている。
「フレーフレーエステル様!」
「エステル様ファイト―!!」
しかもその周りには何故かローニャ―にリズベットやサティーまでいる。
「相変わらず派手ね?エステル親衛隊」
「そういやいたな」
「思い出しました」
久しぶりの登場、エステル親衛隊。
彼女達も死ぬ気で応援している。
(皆…)
闘技場から派手に応援する友人達に恥ずかしく思いながらも嬉しいと思った。
(私はもう一人じゃない)
未来は随分と変わってしまった。
その過程を作り出したのは間違いなくエステルの努力の賜物だった。
「随分とユニークな応援だね」
「私の宝物です」
対峙する父に穏やかに告げる。
今から決闘を行うのに、緊張はしなかった。
彼等のおかげでエステルの心は穏やかだった。
「両者前に!」
審判が告げると二人の目は変わる。
互いに武器を与えられ、それぞれ選んだ剣を持ち始められる決闘。
決闘競技場の周りに光の結界が敷かれる。
観客に被害が起きないように敷かれた結界からは決闘が終るまで消えることがない。
「両者に薔薇を!神聖なる決闘を執り行う!」
審判の言葉と同時に二人の胸に薔薇が咲く。
「ルールは知っての通り薔薇の花びらが散った方が負けとする。時間は日没まで‥始め!!」
審判の合図とともに二人の決闘が始まった。
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