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第八話父と娘、愛の死闘
13.支え
しおりを挟む夜が明け、二人は抱き合いながら目を覚ます。
「エステル、時間だな」
「はい」
まだ約束には時間がある。
それまで二人は時間を惜しみながら抱き合っていた。
「俺は運命なんて信じない」
「はい」
「例え神であろうと、運命に縛られて生きる気も、お前を諦める気もねぇ」
抱きしめる手はどこか頼りなく震えてながらも必死でエステルを離すまいとしている。
「お前だけは手放したくない…だから」
クロードはこれほどにまで己の情けなさを悔いた。
どうして愛している人に守ってもらわな得ればならないのか。
誰よりも一番守りたいと思う人を苦しませ苦渋の選択をさせてしまったことを悔やみながらも、自分の身勝手さに嫌気がさす。
(なのに俺は、エステルの手を離せない)
本当にエステルの幸せを望むなら、この手を離すべきなのに、離せないクロードは強欲な歴代の王と変わらないとさえ思った。
「クロード様、私を御信じ下さい…例えどのような結果でも私は貴方様のモノです」
「エステル…」
「私が女として貴方を愛したエステルは貴方のモノ…私の心は貴方に捧げます」
これより騎士として戦いに向かう。
絶対に勝つなんて約束は出来なくても、何が何でも勝つ気でいる。
「お前はロバートを慕っていたと言うのに…すまない」
「クロード様の所為ではありません。私が貴方様を愛してしまった故です」
決して誰の所為でもない。
エステルがクロードに惹かれ深く愛してしまった。
ただそれだけだった。
「世界で誰よりも貴方をお慕いしております」
「その言葉を、試合の後でまた聞かせてくれ」
「はい」
秘密の花園で明かした夜は、二人の絆をより強めることになった。
「二人だけの結婚式を今ここに」
「はい」
ひっそり静かに二人だけで愛を誓い結婚式をする二人。
「これを…」
「これは、指輪?」
朝日が昇り、光が指輪を輝かせる。
「王家の指輪だ…姉上が旅立つ前に渡してくれた」
「ですが!」
「本当はお前との結婚式に渡すはずだったが、今ここでお前に贈りたい」
これがクロードなりの精一杯の気持ちだった。
何一つままならないが、せめてこの指輪を身に着け決闘に望んでほしかった。
「俺も共に戦う…思いは同じだ」
「嬉しゅうございます」
エステルの瞳から涙が零れ、クロードは涙を拭う様にキスを送る。
別れのキスではなく、祝福のキスを。
*****
王族の指輪をペンダントにしてエステルは着替えを済ませた。
「お嬢様!!」
「セレナ」
着替えを済ませたエステルの元にセレナ駆け込んできた。
「昨夜はどちらにいらしたのです!私噂を聞いて気が気でなくて!どうして何も言ってくださらなかったのです!!」
怒りながら泣いてまくしたてるセレナ。
我が娘のように思っているエステルが父親に決闘を申し込み、しかも負けたら騎士をやめて即結婚となるなどあまりにも酷い仕打ちだと思った。
幼少期からどれだけ努力して来たか。
セレナは知っていたのだから。
「クニッツ様もあんまりですわ!もうあんな男と口なんて聞いてやりません!」
「セレナ、そろそろお止めなさいな」
「奥様!」
暴走するセレナを止めるヴィオラ。
「まったく不良になってしまって」
「お母様…」
一晩連絡なく邸にも騎士団の寮にも帰らなかったあげく、クロードと一夜を共にした。
(確かに不良かもしれない)
あげく一線を越えたのだから、かなりの不良だと思い、何も言えなかった。
「でも、それでこそ私の娘ですわ」
「え?」
「私も若い頃は貴方と同じで結婚を反対されて両親に反抗して色々やらかしましたのよ?だから貴方は間違っていないわ」
エステルは自分のしでかしたことが正しいとは思っていない。
間違っているとも思っていないが、もっと大人の対応ができればロバートを傷つけずに済んだかもしれないと思ったが、ヴィオラはいいのだと言ってくれた。
「子供は親の思う通りに行くわけないのよ…親のエゴを押し付けられたら子供は不幸になるわ」
「お母様…」
「いい加減にあの人も柔軟になるべきなのよ」
ロバートに対してヴィオラも思う所がある。
だからこそ、今回の決闘に関しては静観し見守るつもりだった。
「必ず勝ちなさい…戦って勝ち取るのです」
「はい」
母の思いを胸に抱き、エステルは気持ちを引き締め闘技場に向かった。
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