ある公爵令嬢の生涯

ユウ

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第八話父と娘、愛の死闘

10.公爵夫妻の考え

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王宮では既に噂となり。
明日の明け方に古式伝統的な決闘が行われることで誰もが注目をしていた。



「聞きまして、あの噂」

「ええ、何でもアルスターの姫君がロバート様と決闘をされると」

「何でもクロード殿下と恋仲だったようですが、ロバート様がお許しになられなかったとか」


何処でも噂好きな令嬢や夫人はいるもので、面白可笑しく話す。


「まぁ、母君が寵妃とはいえど平民ですし」

「噂の絶えないあの方の息子では…ねぇ?」

モントワール侯爵夫人を良く思わない人間は多い。
平民でありながらも王の寵愛を長く受けており、政治的実権もあり。

王族からの信頼もあるので恨みも買いやすい。
その息子のクロードも同様に、蔑んだ目で見られても仕方がなかった。


「アルスター家は名門中の名門貴族、王太子妃になっておかしくない程の血筋ですもの」

「公爵閣下もお認めになっていないようですわ」

「それはそうですわ…万一あの方が公爵の後継ぎとなれば末代までの恥ですもの」

貴族達にとって血筋こそが絶対で、成り上がりなど認められるものではなかった。

平民が貴族より上に行くなどあってはならないと思っていた。

「エステル様は思った以上に考えの足りない方でしたのね」

「ええ、婚約者に婚約破棄をされておかしくなられたのかしら」

カルロとの婚約破棄は宮廷貴族の間でも有名な話だった。
妹に婚約者を寝取られた哀れな姉と噂をする者は未だに少なくないが、弟夫婦が犯罪者まがいことをしたことでエステルへの風当たりは和らいだが、完全に消えたわけではなかった。


あの一件で、エステルは騎士としての道を歩み、事情の知らない者からすれば頭がおかしくなったのでは?と酷い噂を流す貴族もいる。


「ですが、流石女宰相の子です事」

「ええ、傷心中のエステル様に取り入ったのでしょうね」

「でも決闘をするのはエステル様ということは…案外あの方の方が入れ込んでおりますわね」

ニヤニヤと笑いながら下世話な噂を拡大させようとする。
噂が噂を呼び、偽りを真実にして叩き潰そうとする貴族が多い社交の場。


彼女達も同じだった。

ただし、人を貶める者は最後は自分も身の破滅になることを知らない。

少なくとも、この場でそんな噂を流すのは愚かでしかないことに気づかずおしゃべりに夢中になり、背後にいる人物に気づくこともない。


「あら誰に入れ込んでいるのかしら?」


「「「アルスター公爵閣下に、夫人!」」」

おしゃべりに夢中になり過ぎて気づかなかった彼女達は一瞬で地獄に叩き落とされた。


「どうなさいましたの?続けてくださって結構ですわよ?」

「私の孫がどうしたのかのぉ?」


二人はニコニコと穏やかな笑みを浮かべているも目が氷のように冷たく、背後から負のオーラ―が流れていた。


「あっ…いえ」

「何やら楽しそうなお話をしていましたわね?どんな内容かしら?教えてくださらない」

口ごもる彼女達は後ずさるも、ガブリエルは許さなかった。


「明日の決闘のことで皆様を騒がせておりますが…皆様にご迷惑をおかけてしたようで」

「真に申し訳ない」

「いっ…いえ、そのような」

言葉では詫びていても、二人の声はとても低かった。


「我が息子、ロバートが娘を手放したくないばかりにこのような騒ぎを起こして恥ずかしいですわ」

「ですが、これも親心。まぁ、明日の試合をしっかりご覧ください」


終始笑顔で冷静な対応をする二人だったが、一切の隙を感じらない。

「はっ…はい」

「是非!」

カタカタと震えながらもコクコクと頷き彼女達はそのまま去って行く。


「本当に器のない方だ事」

「聞くに堪えないな」

二人は偶然噂を耳にして、貴族達が噂を面白がって拡散しようとしているのも知っていた。

この程度の噂は聞き流すのが一番だと解っているが、同じ王族派が貴族派に便乗していることに我慢ならなかった。


「貴族派はさずや腸が煮えくり返っているでしょうね」

「ならば、この噂を利用する…エステルが勝負に勝てば貴族派を一気に抑え込むことが叶うだろう」

「例え負けたとしても、貴族派に圧力をかけられますわ…」

この決闘でクロードとエステルが恋人同士で将来を誓った仲だという噂は流してある。
現在他国からの貴賓を招いているので余興代わりとして参加してもらう手筈になっている。

もちろんその中には貴族派の息がかかった他国の姫もいる。
愛を賭けた決闘を見せて、クロードには既に心に決めた相手がいると知らしめる。

「愛の無い政略結婚は当たりまえ…ですがただの貴族ならばですわ」

「一国の姫を妃に向かえるならば論外だ」

政略結婚であっても、ある程度夫婦関係は良好でなくてはならない。
それを婚約前から夫は他の女性に心を奪われているとなれば、嫁がせるなんてことは難しい。

例え利益があったとしても真っ当な親ならば考えるだろうし。
王位継承権がないクロードに嫁がせてまでの利益がないならば断わるだろう。

「エステルは既に布石を投じていますわ」

「勝手も負けても殿下が貴族派に取り込めないようにする気だろう」

我が孫ながら末恐ろしいと考える一方で、クロードを守る為になりふり構わず手段さえ選ばないエステルに策士家としての才能があるのでは?と思うジェームズだった。

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