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第七部可憐な皇女と聖騎士
20.王妃の資格
しおりを挟むアルカディアを出る際に王妃は国の代表としていくように言われた。
ただの勅使ではない。
その意味を踏まえたうえで可能な限り国の情勢を伝える。
「我が国では皇女様の存在を嬉しく思わない勢力が二つございます」
「貴族派以外にいるのですね」
「はい、貴族派と戦争により利益を望む貴族と商人です」
大きな戦争に寄って利益を得ることができる。
ハイエナのような貴族も残念ながら少なくなかった。
「現在、王太子殿下に不平不満を持つ貴族派とその下にいる者は貴族派の姫を妃に望んでおります」
「なんと…」
「ですが、欲深く傲慢な姫を王妃になれば国が圧迫されます」
貴族派の押している貴族は妃としての気品が欠けた姫が多い。
「我らの母となるべき方は血筋に誇りを持つ方です。アントワネット様こそが相応しいと思っております」
「まぁ…」
「幸いにも王太子殿下の側近には政治、剣術、魔力…様々な分野に優れた者がおります」
王妃は国の切り札となる。
優秀であれば有利だが、不足部分は臣下が補えばいい。
「恐れながら、皇女様は我等には絶対に持たない武器をお持ちです」
「武器ですと?」
バルセル伯爵はアントワネットが剣術の稽古どころか身を守る術一つとして学んでいないことを知っている。
「アントワネット様のお持ちになるお心です」
「あの子の?」
「利益でだけでは人はついてきません。特に辺境の地や他国の貴族は…」
全ての貴族が利益だけを求めるとは限らない。
特に騎士道を貫く騎士や軍人は国に身を捧げることを全てだと思っている。
「気高く、気品に満ち溢れながらも優しさを持ち合わせる女王様こそ主としてお仕えしたいと思われるでしょう」
理想の女王としての器をアントワネットは持ち合わせている。
血筋に王族としての高潔さを持つ。
「国民に愛され尊敬される女王となり遊ばされますれば、アントワネット様を認めざるを得ません」
「しかしそのような代役をあの子に」
「その為に我らがおります。国同士の諍いは外交問題となり、いずれ戦争の火種になります」
互いに仲良くあることが大事であり。
国同士がきっちりと結びつき尚且つ国民に信頼されなくてはならない。
「国の9割は国民です。国民から信頼されぬ君主が国を治めることができましょうか」
「アルスター侯爵令嬢…」
無礼だと解っていながらも言わずにいれなかった。
国民に殺されてしまった国王と王妃は最後まで国を憂いていたはずだ。
あんなにも国を愛していた二人が、国に、国民に殺されるようなことが許されるわけがない。
ならば、国民に知らしめればいい。
アントワネットがどれだけ王妃として優れているか。
国を愛しているか。
それを伝えるのが傍にいる貴族の務めだから。
「アルスター卿、貴方は騎士にしておくには本当に惜しい方ですわ。ねぇ?」
「真に…大臣の器をお持ちですな」
「はい?」
エステルの言葉に驚きながらも二人は安堵する。
「あの子の将来は心配でありますが、貴方のような方がいらっしゃるならば安心です」
「クローディア陛下…」
「どうか、あの子のことをお願いいたします」
当初は世間知らずで疑うことすらしないアントワネットを同盟の為に嫁がせて大丈夫なのか、不安だった。
特にアルカディアとエルラドでは風習がかなり異なっており、文化の違いや作法の違いで他の貴族から心無い扱いを受けるのではないかと危惧していた。
だが、味方が一人もいないわけではなく。
ここにいる少女は少なくともアントワネットを未来の王妃として迎えるつもりでいた。
(貴方を信じましょう…白銀の騎士殿)
娘の行方に国の向かう先を案じながらもクローディアはエステルのまっすぐな思いに心打たれ託すことにした。
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