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第七部可憐な皇女と聖騎士
19.エルラド帝国
しおりを挟む軍事大国とも謳われ歴史も長い帝国。
長い間女王が国を治め、無駄な血を流さず政治により戦争は極力避けているが。
その裏で流れる血は少なくない。
国を守ると言うことは犠牲がつきもので、クローディア大公は隙のない性格だった。
それが他国での噂だった。
「この度は遠路はるばるお越し下さり誠にありがとうございます」
「陛下、そのような…」
玉座から降りて頭を下げるクローディアに真っ青になる。
「一国の長がそのような!」
「今は私と側近のバルセル伯爵しかおりません」
他に大臣がいるわけでもないので問題ないと言うも、そういう問題じゃない。
「私は母として貴方様にお礼をしたく思います」
「人として当然のことをしたまでで…」
目の前で襲われている少女がいれば、助けるのは当然だった。
特にエステルは騎士としての心構えを叩きこまれ、騎士道は人を助けるのが当然とされているので特別なことをしたつもりはない。
「そうですね、娘を助けてくださったこともありますが…」
「アルスター侯爵令嬢、貴方様にはもう一つお礼を申さなくてはなりません」
「はい?」
クローディアは侍女を呼び、見せたのは宝石箱とドレスだった。
「これは…」
「貴方様がお送りくださった贈り物です。このような心配りをしてくださった貴族は初めてです」
エドワードとアントワネットの婚約が決まってすぐに、エステルは王侯貴族の者として贈り物を送った。
宝石箱は職人に凝らせて作った代物で国花はエルラド帝国を象徴する百合の花だった。
真っ白な百合の花をモチーフに作られた絹のドレスは豪華ではないが、清楚感が溢れている。
「我が帝国にとって百合は特別です。他国に嫁ぐ娘に百合を送ってくださったのは貴方が初めてでしてよ」
国同士の同盟に気遣いなど無かった。
互いの利益だけを考え、嫁ぐ姫はいわば人質として扱われる。
国同士の婚姻に心など無い。
嫁いだ王妃は、子を産み後はどうなるか。
「モントワール侯爵夫人からお手紙を幾度もいただきました」
「夫人が…」
「娘の傍仕えになる貴族はどんな方か、王妃殿下にどうしても伺いたくお願いしました」
今回の訪問はクローディアの不安を解消させる意味合いも持っていた。
「娘は嫁ぐには幼過ぎます…敵はどれほどいるのか」
どれだけ不安を抱いていたのだろうか。
過去を振り返り、疑うことを知らない素直で優しい皇女は側近に裏切られ最後は敵国の姫として殺されてしまった。
心からアントワネットを思っていた貴族は引き離されてしまい、傍にいる貴族は甘い言葉だけを囁き利用していただけだった。
「私は陛下に意見できる立場ではございません…なれど」
「許します」
「はい」
発言を許可し、この場で話すことを許す。
「貴族派以外にも敵となる者は少なくありません」
「ちょっとエステル!」
本来ならば言うべきではない言葉だった。
最悪同盟の危機となるかもしれないが、エステルは言わなくてはならないと思った。
(女王陛下は王妃様と同じ…ならば!)
エステルはクローディアの王としての資質を見て愚王ではないと解った。
世間で知らされる女帝とは違うと判断し、今の国の現状を伝えることを決意した。
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