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第七部可憐な皇女と聖騎士
12.世界一不幸な男
しおりを挟む訓練所にて、エステルは苛立ちをぶつけていた。
「はぁ!!」
「わぁ!」
剣がぶつかり合う音が響くも、一方的なものだった。
「でやぁぁあ!!」
「ちょっ…待て待て!!」
もちろんのその相手をさせられるのはこの世で最も不幸な男、ユランだった。
「やめよ、やめ。話にならないわ」
「おい、あんまりだぞ」
一時間も満たない内に勝負はついたのだが、勝負とは言えない。
一方的にやられて逃げていただけだ。
「馬鹿とね」
「貴方はこれでも騎士科の生徒ですか」
「うるせぇ!特に眼鏡!何でお前もいるんだよ!」
騎士の訓練所に何故かジークフリートがいる。
普段ならば教育係の官僚の元を走り回っているはずなのだが。
「仕事が予定より早く終わって暇になったのです」
「お前、友達いねぇもんな」
「女性の後を追いかけ回すことに命をかけている貴方に言われたくありませんね」
皮肉を皮肉で言い返す。
ジークフリートは優秀ながらも親しみには欠けているので未だに王宮では世間話こそしても友人ができていない。
本人はまったく気にしていないが…
「そういえばルークは?」
「ルークさんならあそこに」
最近忙しいのかあまり姿を見ないルークだったが、乗馬の訓練をしていた。
「ん?」
遠目からだが、数名の団体が見える。
「「「キャー!!ルーク様ぁ!!」」」
王宮に出入りする令嬢達が黄色声を上げている。
「なっ、何だあれ!」
「ルークはモテモテと」
「彼は見た目も中身も申し分ありませんし」
サブローとジークフリートはうんうんと頷く。
身分も問題なく品行方正で物腰柔らかく、次男であることから領地を継げない立場にあり苦労していたので身分が低い者に対しても優しかった。
特に女性には優しいのでモテないはずがない。
「何でアイツがあんなモテて…侍女ちゃんにタオル貰ってんじゃねぇか!」
「ちゃっかりした侍女ですね」
頬を染めながらタオルを差し出す侍女はルークに惚れているなと分析するジークフリートは何やらノートをとり出す。
「何を書いているの」
「もちろん、ルークさんのデーターです」
「なんのデーターよ」
一体何に使うのか不安を抱く。
そんな中、カミュが訓練所に現れる。
「アルスター卿、直ぐに来るように」
「はい?」
「王妃様がお呼びだ」
「え?」
一難去ってまた一難。
エステルはさらに嫌な予感してならなかった。
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