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第六部貴方に捧げる薔薇
21.毒
しおりを挟む床に落ちたティーカップに驚くミシェル。
「何やってんのよエステル…」
「触らないでくださいミシェル様!これは毒です」
「え?」
エステルはこのお茶に見覚えがあった。
逆行前の記憶では王族に仕組まれた紅茶と同じ共通点があった。
そしてエステルが飲んだ水に含まれた毒の成分と似ている。
あの時は水が少し古いとしか思わなかった。
けれど、精神的にも肉体的にも限界だったエステルは判断力が鈍っていた時と違い、今は正常な判断もできるし毒に関する知識もある。
(この毒は同じだわ)
朧げな記憶の中だが、毒の成分によっては紅茶の色が変色する。
「この毒…体内に毒性が残らない物です」
真っ青になりながらアリスが言い放つ。
薬の開発もしているアリスは薬品に関しても詳しかった。
「でも、毒なんて何処に?」
「お湯を注いだ時に色が変色したりしませんでしたか?」
「はい…茶葉を淹れる前にお湯で温めて…その後茶葉を淹れてお湯を注いで」
お茶を淹れる手順を聞かされエステルは分析する。
(ポット、ティーカップじゃない)
毒を塗られたのではなくお茶の中に含まれていた。
毒が浸透するのには時間がかかる。
ティーカップに塗られていたとしても、確実に毒を飲ませるならばお茶の中に入れるのが確実だが…
(この茶葉の中に?)
この茶葉は王室御用達でモントワール侯爵夫人が愛用し、王族のお茶会でも必ず出されるモノ。
(待って、これはエーファが厨房から持って来た…)
エステルは真っ青になる。
「ミシェル様、クロード様は本日お茶会があるとおっしゃっていましたか?」
「ええ、確か両陛下も交えてお茶会が…」
(まずい!!)
この茶葉が何者かによって毒を含んだ茶葉にすり替えられたとした?
もしかしたら王族暗殺を狙ったものだとしたら?
クロードの命が狙われているとしたら?
「クロード殿下が危ない!」
「ちょっとエステル!」
エステルは考える間もなく執務室を飛び出していく。
「待ちなさいエステル!」
「待ってくださいお二人共!!」
飛び出すエステルの後を追うミシェル。
その二人を急いで追いかけるアリスに続きエーファとセスも後を追った。
廊下を走り、広間に向かう。
(間に合って…間に合って!!)
万一にも貴族派が仕組んだとすれば、真っ先に狙われるのはクロードだった。
お茶を飲んで毒殺された場合、貴族派にとっては邪魔な人間を始末で来きる。
体内から毒物が残らず、即効性の毒物だった。
万一クロードが飲まなかったとしても、疑われるのはモントワール侯爵夫人かクロードだった。
なんせこの茶葉を愛用している二人は、お茶会の時は必ずこの茶葉を使いもてなしている。
王族の中で危うい立ち位置にあるクロードだが、エドワードが毒殺されればクロードが次代の王となる故に暗殺を企てたのでは?と疑う人間がいる。
それこそが貴族派の狙いだった。
(私が疑われる前にも似たような事件があった!)
エステルが投獄されるきっかけとなった晩餐会以外にも王族暗殺事件は起きていた。
ただし、その時も犯人は特定できなかった。
(どうして気づかなかったの!)
王室のスケジュールを完全に把握していなかったことを悔やまれる。
(クロード様…クロード様!!)
急がなければ間に合わない。
万一にでもクロードが死ぬようなことがあったら…
(いや…嫌よ!!)
エステルはクロードを失うことがどれほど恐ろしいのか思い知る。
同時に気づく。
(私はクロード様だけは失いたくない!!)
自分の本当の気持ちに気づく。
恋のような淡い感情ではなく。
激しい思い。
いなくなってしまったら生きていけない程の強い感情をクロードに抱いているのだと気づく。
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